ニューズウィークが中国の衛星が3月に軌道上で突然分解した理由がわかったと報じている。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/08/post-96988.php
2019年9月25日に酒泉衛星発射センターから打ち上げられ、高度760〜787キロの軌道を周回していた中国の気象衛星「雲海1号02」が、2021年3月18日7時41分(協定世界時)に分解(ブレイクアップ)した。
米国宇宙軍第18宇宙管制飛行隊(18SPCS)は、3月22日、この事象をツイッターで公表し、「『雲海1号02』の分解に関連するスペースデブリ(宇宙ゴミ)21個を追跡して、原因究明にあたっている」と報告した。
米国宇宙軍のオンラインカタログ「スペース-トラック」では、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の観測データが登録されている。米ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天体物理学者ジョナサン・マクダウェル博士は、8月15日、デブリ「48078」のデータに「衛星と衝突した」旨が付記されていることに気づいた。「48078」は、1996年9月にロシアの偵察衛星「ツェリーナ-2」を打ち上げた「ゼニット2ロケット」から放出されたスペースデブリだ。
マクダウェル博士は軌道データを分析し、中国の気象衛星「雲海1号02」が分解したとされる3月18日7時41分に「48078」と「雲海1号02」が1キロ以内に接近していたことを突き止めた。
このことから、「48078」に衝突したのは「雲海1号02」である可能性が高い。マクダウェル博士の分析によれば、この衝突によってこれまでに37個のデブリが確認されており、おそらくより多くのデブリが発生したとみられている。なお、「雲海1号02」は分解後も制御下にあり、軌道修正も行われている。(中略)
欧州宇宙機関(ESA)によると、2021年8月時点で地球周回軌道には約1億3000万個のスペースデブリが存在する。これらは高速で移動しており、宇宙探査機やその機器などに損傷を与えるおそれもあると懸念されている。
このニュースはスタニスワフ・レムのSF短篇を思い出させる。『宇宙飛行士ピルクス物語』(ハヤカワ文庫)下巻に「ピルクスの話」という短篇がある。ピルクスが宇宙飛行している時に巨大な謎の宇宙船に遭遇する話だ。そのこと以外にとりたてて大きな事件はない。しかし、その宇宙船はとてつもなく巨大なのだ!
ピルクスは宇宙ゴミの回収業をしている。宇宙空間に散らばった人工衛星や宇宙船の残骸など、宇宙の廃品=スクラップを回収する仕事だ。ピルクスの宇宙船は廃品回収のためのものなので積載量?は大きいが飛行スピードは遅い。しかも回収したスクラップを牽引しながら飛行しているのでスピードはさらに遅い。それがある時巨大な宇宙船に遭遇する。せっかくのチャンスなのにスピードの遅いピルクスの宇宙船はそれをただ見送るしかない。
距離が22キロまで接近したところで、あきらかに相手の船が(ピルクスの乗る)〈夜の真珠〉号を追い越しはじめた。あとは間隔が拡がっていくのはわかっていた。(中略)
それは宇宙船ではなく、空飛ぶ残骸だった。なんのスクラップか得体が知れなかったが。20キロ離れたところにいるそいつの大きさは、わたしの掌よりずっとでかかった。みごとに均整がとれた紡錘が円盤に、いや輪(リング)に変わっていたのだ!
もちろん、あなたは、それが異星の宇宙船だということに、とっくに気づいているんではないかと思う。そう、なにしろ長さが10マイル(=16km)もある船だから……そういうのは簡単だ。だがはたして異星の船なんてだれが信じてくれるだろう。(中略)
(ピルクスは照明弾を発射する)わたしは照明弾が燃え尽きようとするいまはのきわに、あの巨船の表面を見た。つまりそれはなめらかではなく、まるで月の地表のようにでこぼこで、光は、丘やクレーター状のくぼみでむらになって拡がっていたのだ。あの船はきっと、すでに何百万年ものあいだ飛びつづけ、黒ずみ命を失って塵雲のなかに入りこみ、何世紀もたってからそれを抜け出したのだ。そのあいだに何万回となく塵のような隕石がぶつかり、船体をかじられ、真空の腐蝕に食われてしまったのだ。どうしてそう断言できるのか説明できないが、あの船には生き物がまったく乗っておらず、数百万年前にそれに大惨事が起こり、おそらく今は、あれを送り出した文明もすでに存在していないことを知っていた。(中略)
それでいっさいのことが終わった。(中略)われわれのところへ宇宙から客がやってきたー―それは、数百万年、いや数億年に一度あるかないかの訪問だった。だというのに、技師とやつの義弟のせいと、わたしが不注意だったために、あの船はわれわれの鼻先で姿を消してしまい、果てしない宇宙空間で幽霊のように溶けてしまったのだ。
ピルクスの宇宙船が廃品回収業だというのは、スピードが遅くて巨大宇宙船に遭遇したのにただ見送ることしかできなかったということの伏線だった。
レムは地球外知性との遭遇をこんな形で描いてみせたのだ。ほとんど多くのSF作家たちが想像する地球外生命とはスケールが違うレムの想像力の偉大さだ。『ソラリス』ではある星の海が知性を持っていた。地球の生命と全く異なる原理の生命を想像するレムの知性の唯一無二のユニークさよ!
国書刊行会が9月から再び「スタニスワフ・レム・コレクション」第Ⅱ期を刊行するという。なんという楽しみだろうか!
https://www.kokusho.co.jp/special/2021/08/post-17.html