世田谷美術館の「村井正誠あそびのアトリエ」を見る

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 東京砧公園の世田谷美術館で「村井正誠あそびのアトリエ」が開かれている(4月5日まで)。ちらしのデザインなどがやや控えめな印象だったが、今回の展示は世田谷美術館所蔵の作品を中心にしたもののようだ。村井は1905年に岐阜県で生まれ、1999年に世田谷の自宅で亡くなっている。享年93歳、あと2ヶ月で94歳だった。
 会場は4つの部屋に分かれていて、初期から終戦まで、戦後から60歳まで、版画、60歳から95歳で亡くなるまでの円熟期となっている。ごく初期を除いて村井の幾何学的な抽象が確立されている。また戦争が作品にほとんど影響していないことは驚くべきだろう。
 1960年代後半からの時期を村井自身は「色の時代」と呼ぶという。60歳以降だ。フラスコのような形の人が現れる。77歳の時の「私の履歴書」が面白い。しかし、83歳の「京都2」や87歳の「大覚寺」がすばらしい。91歳の「居並ぶ人々」や93歳の「黒い人」が絶品だ。あまりのすばらしさに見ていて胸が締め付けられる。単純な形、選び抜かれた色、短いストロークの筆触、すべてが素晴らしい。「大覚寺」のドットのようなグレーの美しさ。村井正誠の完成度は晩年可能な限りの到達度を示した。
 これらの作品が世田谷美術館の所蔵だとはなんという幸運なことだろう。最後の晩年の作品を展示する部屋を何度も見て感動していた。
 図版を下に紹介するが、撮影は禁じられていたので、販売していた図録から引いている。

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私の履歴書

f:id:mmpolo:20200226223656j:plain大覚寺

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居並ぶ人々

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黒い人
 美術館を出ると梅が咲いていた。桜の蕾はまだ硬いようだった。むかし世田谷美術館を出て砧公園を歩いたときは桜がみごとに満開だった。その時はそばに人がいた。ふと栗木京子の短歌「観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)」を思い出した。
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「村井正誠あそびのアトリエ」
2020年2月8日(土)―4月5日(日)
10:00-18:00(月曜休館)
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世田谷美術館
東京都世田谷区砧公園1-2
電話03-3415-6011
ハローダイヤル03-5777-8600
https://www.setagayaartmuseum.or.jp