ギャラリーαMの中村一美展を見る

 東京東神田のギャラリーαMで中村一美展が開かれている(3月23日まで)。中村は1956年千葉市生まれ、1984東京藝術大学大学院美術研究科油画を修了している。2014年に国立新美術館で大きな個展が開かれたことが印象に残る。

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 ギャラリーが配布している「中村一美の作品について」を読むと、中村は大学時代からワンダーフォーゲル部に属していて山歩きを好んだ。そんなことから南アルプスフォッサマグナとか地質学のプレートテクトニクスなどがテーマに絡んでいるようだ。画面に多く描かれた激しい斜線はそれらと関係する造形なのだろう。今回のキュレーションを行った蔵屋美香が書いている。

 中村は、1970年代を席巻したコンセプチュアル・アートの動向の後、1980-90年代に起こった世界的な「絵画の復権」ともいうべき流れの中で活動を開始した。この動向は日本において、とてもざっくり言うと、アメリカ抽象表現主義の再考と乗り越えを企図する作品群と、具体的なモチーフを用い、ときに「物語」というキーワードで語られた作品群の二つの系統によって主に担われた。中村は前者の代表的な作家として、「現代美術への視点:形象のはざまに」(1992-93年、東京国立近代美術館他)、「視ることのアレゴリー1995:絵画・彫刻の現在」(1995年、セゾン美術館)など、「絵画の復権」を代表する展覧会に次々と出品した。しかし中村は2002年、強い調子でこう書いている。
 「私は、抽象絵画という呼称は廃棄すべきと考えるに至った。それは20世紀に考案された概念であり、私の絵画に対する様々な誤解の多くは、私の絵画を単なるフォーマリスティックな抽象とのみ把えようとする偏見に基づいている。私の最初の『Y型』の絵画から既にそれは抽象でもなく、具象でもないSocial Semanticなレヴェルを扱う絵画なのである」
 ソーシャル・セマンティック、つまり中村によると「社会的意味論的」な絵画。それはモチーフとして社会的な事象を描くのではなく、一見抽象的な色や形の組み立て自体が社会的な事象を指し示す絵画である。そして中村の絵画が指し示そうとする社会的な事象の多くは、繰り返し到来する何らかの崩壊に関わっている。

 

 何らかの崩壊とは阪神淡路大震災や2011年の震災、またその他の社会的な崩壊を指すのだろう。国立新美術館の個展の印象があまりに強く、多少とも物足りなさを感じたのだった。
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中村一美展
2019年1月26日(土)-3月23日(土)
11:00-19:00(日月祝休)
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ギャラリーαM
東京都千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F
3-5829-9109
http://gallery-alpham.com/
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