井上ひさし・作『少年口伝隊一九四五』が素晴らしい


 井上ひさし・作『少年口伝隊一九四五』がとても良かった。演出が栗山民也、新国立劇場演劇研修所公演の朗読劇だ。私は初日の8月1日に見た。朗読劇なので、舞台の上に横1列で12人の役者が並んでいる。演劇研修所第12期生たちだ。音楽は後方にギターの宮下祥子が座っていて、一人で演奏を受け持っている。
 芝居が始まると、役者たちが次々と台本を持ったまま台詞を読み上げる。演技は最小限でしかない。ひたすら井上ひさしの言葉が語られる。広島に原爆が落ちたときの市内の様子が語られる。聞いているだけで苦しいほどの内容だ。
 生き残った3人の小学生が主人公だ。原爆で破壊された中国新聞社が、壊れた印刷機の代わりに少年たちを雇って、口頭で新聞に載せるニュースを読み上げて伝える口伝隊を組織したという設定になっている。
 少年たちが新聞社が作ったニュースを人々の前で大きな声で伝えて歩く。広島市は大きな被害を受けたが、戦争は続けていくと広島県知事が声明する。あくまで敵と戦うようにと。塩は海水から作れ、家がないから山の斜面に穴を掘って暮らせ、そのとき草花を活けて生活に潤いをもたせろと。少年たちは広島大学の哲学者じいちゃんから質問を受ける。海水から塩を作れと言っても海は遺体でいっぱいだ、穴を掘る道具がない、草花を飾ろうにも植物は見当たらない。
 戦争が終わり、アメリカ兵が駐屯してくる。県知事は米兵のために性的慰安所を用意するよう指示を出す。性的慰安所とはなにかと少年たちが問う。米兵をもてなすためだと説明を受けて、この間まで戦えと言っていた相手をもてなすというのはなぜか。
 そのころ広島を巨大な台風が襲う。広島は泥の海になる。少年の一人が溺れる。間もなくもう一人が原爆症で亡くなる。
 舞台には小さな広島市の模型があるばかりなのに、役者たちの台詞によって、ヒロシマの悲劇がまざまざと立ち上がってくる。すばらしい舞台だ。何度見ても感動する。研修生たちの演技もよかったし、栗山の演出も優れていたと思う。ギター演奏もよかった。だが、最大の功労者は作者たる井上ひさしだろう。
 2008年の初演ではたしか『リトル・ボーイ、ビッグ・タイフーン』という題だった。その時2回見て、2009年と2010年を見逃し、2011年からは毎年見ている。2016年と2017年は別の芝居を上演した。やはり毎年見たい舞台だ。