東京都写真美術館で杉浦邦惠「美しい実験/ニューヨークとの50年」が開かれている(9月24日まで)。杉浦は1942年名古屋市生まれ、お茶の水女子大学物理学科を中退したのち渡米してシカゴ・アート・インスティテュートで写真と出会う。留学当初、写真を専攻する学生は杉浦を除いてほとんどいなかった。
……しかし彼女は、表現としての写真の可能性にいちはやく注目し、実験的な手法によって制作をおこなっていきます。魚眼レンズによる画像の歪み効果の使用や、人物と風景のモンタージュ、ソラリゼーション、モノクロとカラーネガの併用など、制作のプロセスを重視した表現形式を作家は最初期から模索してきました。
これは美術館のちらしの言葉だ。杉浦は様々な表現手法を試みる。とりわけフォトグラムが杉浦の代表的な作品じゃないだろうか。もう20年以上前、銀座の鎌倉画廊で何度も個展を発表していた。フォトグラムといえば、ふつう印画紙の上に直接物を置き、その形を影として印画紙に定着させるものだ。ところが杉浦は未現像の印画紙を敷いた箱の中に猫や鳥を入れ、一晩かけて露光する。動物は動き回ったり一定の場所で動かなかったり、予測できない行動をとる。それが影として印画紙に定着される。
今回は新しい試みとして、猫や鳥の代りに著名人を使っていた。まさか彼らを箱の中に入れるなんてことはするはずもなく、その人の典型的なモノとともに写真を撮っている。村上隆ではドブ君だったり、ジェームズ・D. ワトソンだったらDNAの二重らせんの模型を持った影絵様のポートレートだったりと。ちらしの表紙を飾ったのは具体協会の田中敦子をイメージしたもので、田中敦子が様々な色の電球がついた洋服を作って身にまとったのを再現して、電球が光るのではなく内側から輝いているという洋服を作りそれを撮影したものだ。
さて、杉浦の制作を追ってここまで書いてきたが、いずれも私にとってつまらなかった。なるほど杉浦は写真表現の幅を広げたのかもしれない。たしかに写真の新しい世界を開拓したのは事実だ。だがその世界は痩せた土地で、魅力ある場所とは言いかねるのではないか。だから杉浦も次々に新しい技法を開拓し続けてきたのだろう。豊かな世界を求めて。
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杉浦邦惠「美しい実験/ニューヨークとの50年」
2018年7月24日(火)―9月24日(月・振休)
10:00−18:00(木・金は20:00まで)月曜休館
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東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話03-3280-0099
http://www.topmuseum.jp