ユカ・ツルノ・ギャラリーの狩野哲郎展を見る


 天王洲アイルのユカ・ツルノ・ギャラリーで狩野哲郎展が開かれている(2月25日まで)。狩野は1980年宮城県生まれ。2005年に東京造形大学造形学部デザイン科を卒業、2007年同大学院造形研究科美術研究領域修士課程を修了している。
 私は2011年の東京都現代美術館パブリック・プラザ即ち屋上スペースでの個展と2015年の資生堂ギャラリーでのArt Eggを見た。どちらも個展スペースに生きている鳥が放たれていた。
 今回画廊で配っているちらしには、生物学者のユクスキュルと建築家のアレクザンダーが引かれている。その建築家は知らなかったが、ユクスキュルは重要な生物学者だ。環境世界という概念を提示し、生態系に極めて重要な考え方をもたらした学者だ。動物の世界観はそれぞれの動物によって異なり、いずれも人間のそれとはまったく異なる世界に生きているといったことを初めて主張した。
 たとえばダニの世界は人間とは全く違っている。マダニは草の上などでいつまでもじっとしていて、近くを哺乳動物が通りかかるとその呼気に感応して動物に移り寄生して吸血する。このようなマダニの世界=環境世界は人間のそれとどんなにかけ離れているか。
 狩野が従来の個展で生きた鳥を放したインスタレーションを制作したのは、環境世界に注目したかららしい。ちらしによると、

……本展では植物をモチーフに、虫や微生物など植物を取り囲むマクロな世界観を導きながら、細部がそれぞれの生物にとって固有性を獲得しながら全体を生み出していくような複数的な世界の想像を促します。







 作品は難しいものが多い。単に造形的な美を追求するのではなく、ある種の世界観を作品に込めているからだ。奥のスペースに小さなモノを使ったモビールが展示されている。モビールはつり合い=調和を利用した造形だ。環境とは一義的に生態系の調和なのだから、モビールで表現するのはまさに理にかなったものだろう。
 また小さな木の枝などを組み合わせた作品も、調和によって成り立っている環境世界のアナロジーでもあるのだろう。ちらしに副田一穂が書いているところによると、以前狩野は古材に潜入しているシバンムシを使った作品を提示したこともあったらしい。それなら、作品に変形菌(=粘菌)を取り込むのも有効かもしれない。変形菌の写真家である伊沢正名も環境問題からきのこや変形菌の写真家になったのだから。
       ・
狩野哲郎展「a tree as a city」
2017年1月21日(土)−2月25日(土)
11:00−18:00(金曜日―20:00)日・月・祝日休廊
       ・
ユカ・ツルノ・ギャラリー
東京都品川区東品川1-33-10 テラダ・アート・コンプレックス 3F
電話03-5781-2525
http://www.yukatsuruno.com
りんかい線 天王洲アイル駅下車
東京モノレール 天王洲アイル駅下車
京急本線 新馬場駅下車