篠田魔孤を詠んだ林俊の詩

 『林俊詩集』(風塔舎)に篠田魔孤を詠んだ「破れたる出発」という詩があり、「篠田魔孤に与う」と献辞がある。

ぴやらぴやらと破れたるラッパは鳴れり
そはわれらがかなしき門出の合図なるべし
いざゆかん つぎつぎと
白き晒布はハタハタと風に翻り
我らが名前の書かれたる
白木の墓標をかつぎ
おのがじし黒き墓場への坂を下らん
友よ ふる里に秋風は吹きすさび
酒店の灯火は冷く消えんとす
我は今宵ひとり暗き街にいで
古きロシアの小説を買わんと
書店の軒を漁りあるきけり
友よ
君はいずこの国の酒場をさまよい渡るか
その長髪に十九世紀の憂愁をたたえ
そのトランクにアジアの民の悲哀をこめて
いずこの酒店の前にたたずめるか
友よ
われらのふる里はすでに壊(つい)えたるを
われ等秋風に吹きよせられし枯葉なれば
われもまたひとり秋風をたよりに
あてなき方へおちのびんとす
いざ 暗き洞穴への狭き間道を

 作者の林俊(はやしとし)は長野県飯田市の詩人。長く同人誌『橋』を主宰していた。飯田市俳人久保田創二とは文学仲間だった。創二も事故死している。この詩は飯田市の孤高の画家篠田魔孤が不遇の死を遂げたあとで書かれたものだろう。篠田魔孤は1964年11月27日、57年の生涯を閉じた。
 最近その魔孤の絵を数点、魔孤の友人だった人の娘さんから見せてもらうことができた。以前紹介した作品と併せてここに掲載する。


 以下は以前紹介した作品。

新緑の風越

風 景


伝説の画家・篠田魔孤を誰も知らない(2007年1月7日)
篠田魔孤と久保田創二(2015年1月4日)