とりとめなく色について:あしたのジョーとルビーロウムシ



 東京京橋にブラザーのショールームがある。そのプリンターの宣伝キャラクターとして『あしたのジョー』と契約しているようで、ビルのファッサードにジョーや丹下段平白木葉子などのイラストが大きく貼り出されている。この色彩が見るたびに違和感を覚えさせる。
 『あしたのジョー』はモノクロだったのではないか。ブラザーがキャラクターとして採用するに当たって独自に着色したのだろう。明るい原色で蛍光カラーっぽく軽い色なのだ。それがジョーのキャラクターと不調和に思えるのだ。ジョーって暗くて重い地味な印象が強い。だからこのブラザーの色彩には違和感が強い。
 多分、広告代理店がブラザーに対して、「明るい軽い色を採用することが異化効果なんですよ」くらい言ってプレゼンしたのではないか。イカに止まって効果にまで達していない。

 この写真は、神奈川県立近代美術館 葉山の入口の植栽でおそらくヒサカキに寄生していたルビーロウムシの群生だ。ルビーロウムシは昆虫のカイガラムシの仲間。これは雌成虫で枝に固着して動くことはない。黒っぽいのは背中に背負った蝋質物でこれで外敵から身を守っている。ルビーロウムシの名前はこの色が宝石のルビーを思わせるから命名されたことになっている。
 なんでこんな汚い色がルビーなんだと言えば、本種がカイガラムシの世界では赤っぽい部類に入るのでそう命名されたのだろう。とくにカイガラムシ類のなかのロウムシ属はツノロウムシやカメノコロウムシなど、白っぽい種類が多いのだ。ちょっと違うが「鳥なき里の蝙蝠」という諺を思い出した。この諺は本来、能力がないのに重役に抜擢されたのは他に適材がいなかったから、というような場面で使われる。鳥がいなければ蝙蝠も鳥と見なされる訳だ。ルビーロウムシの色の例はむしろ美人の概念に近いかもしれない。どちらも相対的な評価だと思えば。