草薙奈津子『美術館へ行こう』を読んで、併せて三瀬夏之介展を見る

 草薙奈津子『美術館へ行こう』(岩波ジュニア新書)を読む。草薙は神奈川県の平塚市美術館長。ジュニア新書だが、大人が読んで十分面白いし、美術館について教えられることが多い。て言うか、美術館についてほとんど知らないことばかりだったことを知ったほど。
 公立美術館にとって、まず集客が大きな課題になる。そういえば以前東京都現代美術館の入場者数が少なくて、石原(当時)都知事が一定数の入場者数を確保できなかったら閉館するとか言ったとかで、その後東京都現代美術館は夏休みの時期にジブリ関係の展示をすることで、目標の入場者数を確保したのだった。
 その初めの頃は、館内に入場待ちの子どもたちがわんさか行列を作っていた。2年くらいして行ったとき、ほとんど人がいなかったので尋ねると、何時間も子どもたちを待たせたのを反省して、日時指定の前売り券に切り替えたのだという。1日3回、決まった時間に入場してもらうことで解決したと。
 10数年前、20世紀最後の大マチス展がニューヨークで開かれたとき、私も行こうかと思ったが、やはり大人気であらかじめ日時指定の前売り券を入手する必要があると知って、諦めたことがあった。娘から、父さんマチス展のチケットはどこで買えますかって、英語で言ってみてと言われて答えられなかったし。
 平塚市美術館は著者が館長として赴任したとき、人口26万人の平塚市で美術館の入場者数が年間3万人しかなかった。著者は企画展を工夫し、地元に関係する作家や有名な作家の展覧会と、併せて無名に近くて市民に馴染みがなくても有望とみられる作家の展覧会を2本だてで開催する。ワークショップを開いて子どもから年寄りまで参加を呼びかける。缶バッジを作るワークショップでは100人以上が参加した。
 また裏方の仕事が紹介される。収蔵庫の保管や収蔵作品の選定のこと。荷解き場から燻蒸庫の話題まであった。虫やカビを駆除するために燻蒸までしているなんて知らなかった。
 著者がかつて山種美術館で作品貸し出しの担当をしていた時のエピソードが語られる。だらしない印象で交渉にやってきた学芸員、二日酔いの学芸員、交渉に必要な書類がカバンの一番底にあって、下着や服を取り出してやっと書類が出てきたこと、そんな印象が悪かったとき貸し出しの要求を全部は叶えてあげなかったと。そして「まず基本的に挨拶ができる、礼儀正しいといったことが大切だ」とまとめる。当たり前のことだ。しかし、それが守られていないことが多々あることは私も経験している。


 最近の平塚市美術館では、「はじめての美術 絵本原画の世界2013」が開催されていた(9月8日まで)。私は同時に開催されている「日本の絵 三瀬夏之介展」(9月16日まで)を見に行った。ほとんど全てが大作で、広い平塚市美術館ならではの展示だった。横15mという巨大な屏風絵も並べられている。これは何年もかけて描き続けているのだという。草薙の著書のなかでも、もともと日本画はふすま絵の伝統があり、西洋絵画に比べて大きな作品が特徴だとあったが、三瀬の作品はまさにその通りのものだった。
 会場の一角に三瀬の画室が作られており、その近くに小品も展示されていた。巨大な作品は個人の家にはそぐわないが、この小品ならほしいと思ったのだった。
 この観覧料がたったの200円だった。私はシニアなので140円、これは安すぎるのではないだろうか。平塚駅から美術館前までの片道のバス料金の方がもっと高かった(170円だったっけ)。顔が長い成島柳北を指しての福地桜痴戯れ歌「さてもさても世は逆さまとなりにけり乗りたる人より馬は丸顔」を思い出した。


美術館へ行こう (岩波ジュニア新書)

美術館へ行こう (岩波ジュニア新書)