巷房の川井由夏のインスタレーション


 東京銀座1丁目のギャラリー巷房で川井由夏展が開かれている(3月2日まで)。川井は1986年多摩美術大学デザイン科染織デザイン専攻を卒業し、1988年同大学大学院美術研究科を修了している。その後、アメリカで学び、後に文化庁派遣芸術家在外研修制度でロンドンに滞在し研修している。
 1992年、銀座のコバヤシ画廊で初個展を開いた後、国内外で作品を発表している。
 今回の個展は布で作った不思議な形態のオブジェを多数天井から吊している。これは何だろう。壁に川井の書いたテキストが貼られている。

 都心近くに暮らしていると、ビルが建っていて空が狭くなったことに気がつき、はたと立ち止まることがあります。人工物と人工音に囲まれ、自然から遠く離れて、そのような日々の景色のなかに見知らぬ草木が現れ驚かされることがあります。おそらくはじめは雑草と見過ごしていたものが、その芽生えがすっかり成長していたのです。都会のなかにある豊かな樹木や花々をめざして鳥が訪れて、そして種を落としていくのでしょう。そこである必要がない不似合いな場所に育つ小さな木の来歴を、私はあれこれ想像しながら眺めます。運ばれた種は無作為に与えられた場所を黙って受け入れ、光を求めて精一杯のびようとしています。
 繰り返される日常や偶然、なにげないことがらに制作の糸口があります。物事は完結したようにみえて、繰り返し続いていきます。生きていくことは、獲得と喪失、出会いと別れの繰り返しです。終わりはいつも新しい始まりを暗示しています。
 ひとは、土を耕し種を蒔き実りを得るように世界を切り開こうとしていながら、時に運ばれる種のようにあてどなさを受け入れ根を持とうとするのではと思います。

 このテキストが作品を十全に示しているように見える。不思議なオブジェは西部劇に現れる荒地を転がる草「タンブル・ウィード」ではないだろうか。タンブル・ウィードはWikipediaによれば「株はボール状に成長し、秋に果実が成熟すると風によって茎が折れ、原野の上を転がる。この運動により種子をまき散らす」とある。川井のテキストでは「ひとは、土を耕し種を蒔き実りを得るように世界を切り開こうとしていながら、時に運ばれる種のようにあてどなさを受け入れ根を持とうとするのではと思います」と書かれている。
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川井由夏展
2013年2月18日(月)−3月2日(土)
12:00−19:00(最終日17:00まで)日曜休廊
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巷房(こうぼう・ギャラリー)
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル3F
電話03-3567-8727
http://www5.ocn.ne.jp/~kobo/