やっと見つかった山本弘「黒い鳥」

 山本弘に「黒い鳥」という作品があった。たしか30号の油彩だった。日本アンデパンダン展へ出品したと聞いた記憶がある。1968年8月の飯田市中央公民館で開いた個展にも展示されていた。当時アメリカの熱い夏と言われた黒人暴動を描いたのだと言う。いや暴動といわれたが、黒人の人権を求めた運動だった。黒い鳥は暴力ではなく悲しみとか苦しみを表しているのだ。この作品を山本は住んでいた上郷村役場に寄贈した。その時の新聞記事がある。新聞の名前はわからないが、南信州か信州日報だろう。


下伊那郡上郷村役場に油絵を寄贈
同村下黒田の山本弘さん(38)は、このほど役場を訪れ「どこかへ掛けてください」と30号の油絵"黒い鳥"を寄贈した。山本さんは昭和20年に上京、洋画家滝川太郎氏に師事、油絵を勉強して帰郷した人で、現在リアリズム美術家集団の会員。アンデパンダン展など中央の各種展覧会に出品しており、現在も制作を続けている。なお"黒い鳥"は村長室に掛けられる。

 ところが上郷村は上郷町になったあと、飯田市と合併した。村長室に掛かっていたはずの「黒い鳥」は行方が分からなくなってしまった。何人もの人に頼んで探してもらったが分からなかった。
 それをようやく友人の原英章君が見つけ出してくれた。飯田市役所上郷支所の倉庫に放り込んであったという。写真も撮ってきてくれた。

 山本弘38歳のときの作品だ。この頃は具象的で象徴的な作品を描いている。ほかに「行列」とか「ひだまり」などを描いて、やがて抽象的な作品に移っていく。そういう意味で中期の大事な作品だ。所在が分かって本当に良かった。