山下菊二の「あけぼの村物語」

 先日のNHK日曜美術館で山下菊二が取り上げられた。山下は戦後中村宏池田龍雄らとルポルタージュ絵画運動に加わっていた。代表作は「あけぼの村物語」だ。

 ちょっと気味が悪い作品だ。老婆が首を括っており、犬がその鼻水を舐めている。血色の池の中に男が倒れている。帽子をかぶったり鉢巻きをした険しい顔の犬が死んだ老婆を見ている。
芸術新潮」1993年2月号は「特集・アンケート・戦後美術ベストテン」と題して美術評論家学芸員など30人のアンケートを発表している。山下菊二の「あけぼの村物語」が第5位に選ばれている。さらにその10年ほど前の欧米の美術評論家を対象にした同じようなアンケート結果では、この絵が第1位の評価を受けていた。
芸術新潮」の解説によれば、

 無類の鳥好きでもあった山下菊二は、戦争や差別、社会の歪みを、時に直接的に、時に間接的に描き、告発し続けた画家だった。その代表作《あけぼの村物語》は山梨県曙村で実際に起きた事件に取材したものである。非人道的な山林地主に対して立ち上がった労働者の一人が、地主に頭を棒で殴られ、村の消防団に追われた末に川で溺死。この事件の公判中に現地を訪ねた山下は、土着的なシュールレアリスムとでも言うべき手法により、悲惨な現実をグロテスクと諧謔をあわせ持つ寓話的作品に描き出した。

 テレビで解説した岡崎乾二郎によれば、この作品は事件に立ち会っている地主の視点から描かれている。つまり作品の手前に地主がいるのだ。
 毎年夏に日本橋日本画廊では山下菊二展を開いている。画廊の片隅には未亡人山下昌子さんが座っていることが多い。とても穏やかで上品な人だ。この激しい絵を描いた方の伴侶であったことが不思議なような。
 ちなみに「芸術新潮」1993年2月号の第1位から第4位までは、河原温《浴室》シリーズ、三木富雄《耳》、河原温《日付絵画》シリーズ、関根伸夫《位相ー大地》となっている。第5位は山下のほかに同点で3人が入っている。それらは、荒川修作《作品》、斎藤義重《鬼)、リ・ウーファン《関係項》シリーズだ。