こわいこわい検察官のはなし

 佐藤優がこわい話をしている。検察官の被疑者に対する追いつめ方がすごいらしい。佐藤優佐野眞一加藤陽子の鼎談から。「ノンフィクションと教養」(講談社

佐藤  もう一つ、検察の作る「真実」を信じ切れなくなった例が、佐野さんもお書きになった、1997年の東電OL殺人事件です。取り調べで黙秘し続けたネパール人がいますね。
佐野  ゴビンダですね。
佐藤  その取り調べ検事が、私の弁護士なんです。
佐野  そうらしいですね。
佐藤  まだ若い弁護士なんですが、彼に聞いてみました。「なんで検事を辞めたのか」と。そうしたら、あのゴビンダ事件がきっかけだったようです。明確には口に出さなかったのですけど、彼は無罪心証を持っていると私は受け止めました。
佐野  そうでしょう。あれは無罪です。間違いなく、冤罪です。
佐藤  はっきりとは言わないけど、彼はあの事件を経験することで、検察官として正義を追求するということに対して、自分の内側からの関心がなくなっちゃった。ゴビンダ君は、彼の数年の検察官人生の中で体験した、たった一人の完黙を貫いた人物だそうです。
加藤  完全黙秘。たった一人ですか。
佐藤  「あの部屋の中の我々の圧倒的な圧力の下で、完黙なんかできない」と言うんです。ところがゴビンダ君は、どんなに怒鳴られても、ただニコッと笑うだけ。
佐野  うーん、なるほどな。
佐藤  最初の面会で私がこの弁護士から聞かれたことは、風俗に行っていないかということと、風俗でクレジットカードを使っていないかということでした。「両方ともやっていない」と応えたら、「実は以前、大蔵省汚職のとき、私は手伝ったことがあるんです。私の仕事は、ソープランドに行ってソープ嬢の供述を取ることでした」と言うんです。クレジットカードの支払い記録を辿って、相手をしたソープ嬢を見つけ出し、売春防止法で検挙するかもしれないと言って、客の身体的特徴からどういうサービスをしたかまで、詳しく聞いて調書に仕上げる。
 その調書を、彼の上司が被疑者の前で読み上げるわけですね。そして、「真実だから、国民の前に明らかにしないとならないな」と言うわけです。被疑者は「その調書だけは出さないでください」と懇願する。すると、残りは任意に供述しろ、と。そういう手法なんです。「そういうことをする検察官だから、ある意味で、良心が麻痺している。佐藤さん、分かりますか、事実を曲げてでも真実を追究するんです」と。

 おお、こわい話だ。まあ、風俗にも行っていないし、ましてやそこでクレジットカードも使っていないからいいんだけど。でも、私が検察官だったら真実の追究のために同じことをするかも知れない。さらにI田君が被疑者だったら、彼の自供はもう時間の問題だ。