東京都写真美術館の写真展が良かった

 恵比寿の東京都写真美術館(愛称TOP)の写真展2つが良かった。現在「日本の新進作家 vol.13 東京・TOKYO」と、「TOPコレクション東京・TOKYO」が開かれている(1月29日まで)。

 新進作家展では、小島康敬、佐藤信太郎、田代一倫、中藤毅彦、野村恵子、元田敬三の6人が取り上げられている。突出した才能というのがない代わりにみな水準が高かった。今までも数を揃えるために無理して選ばれたような作家がいたり、個展をしてもおかしくないような傑出した作家がいたりと、毎回けっこうばらばらだったが、今年は粒がそろっている印象だ。
 小島は都会の複雑に入り組んだビル群を独自の視点で撮っているが、昨年の銀座ニコンサロンで個展をしていたのを覚えている。佐藤は東京の夜景の向こうに建設されつつあるスカイツリーを取り込んでいる。田代は街で出会った普通の人たちを被写体にして東京の日常を撮っている。元田はツッパリなどの風俗をモノクロで撮っている。その元田の写真のキャプションを引く。

「トラセテクダサイ」→「はぁ、本当に俺を撮りたいのか?」と怖い顔で何度も確認を迫る男。殴られるかと思ったが、「大阪人はすきだ」と言ってもらえた。


 「TOPコレクション」も良かった。戦後の東京を撮った作品を選んで展示しているが、ここに選ばれた40名余はこれで重要な写真家をほとんど網羅しているのではないか。鬼海弘雄浅草寺境内でのポートレート東松照明の新宿、土田ヒロミの捉えた群衆、倉田精二の夜の新宿歌舞伎町、森山大道の夜の街角、アラーキーの猫、瀬戸正人の撮る底辺の外国人労働者
 島尾伸三は家族を撮っているが、彼は島尾敏雄の息子なのだ。幼い頃母ミホに手を引かれ、小岩あたりの線路で飛び込もうかと言われたエピソードを思い出す。淡々とした不思議なエッセイを書く人だ。
 宮本隆司は劇場などの廃墟を撮っている。北島敬三は昔CAMPという新宿2丁目の写真専門の小さなギャラリーで毎週「東京特急」という個展を開いていた。全紙に伸ばした街中の風景写真が画廊一面に貼りだされ、まだ十分には乾いていない現像液の匂いが充満していた。もう40年もまえになる。私は当時のDM葉書を大事に持っている。ホンマタカシが何の変哲もない郊外の写真を提示したときも驚いた。普通の郊外の白く乾いたおしゃれな住宅の写真がちょっと不気味な顔を見せていた。須田一政も街の裏側を撮っていた印象がある。神田で平永橋ギャラリーと言ったっけ? 写真専門のギャラリーを運営していて何度も見に行ったことがある。鷹野隆大は先ごろ閉じたツァイト・フォト・サロンで男のヌード写真を何度も見せてもらった。
 自分が日常空間でジャンプしている写真を撮っている林ナツミは、次はどんなアイデアを考えているのか他人事ながら心配してしまう。佐藤時啓はストロボを光らせるなどの独自のアイデアで成功した。現在東京藝大の教授になっている。おや、渡辺兼人が選ばれていないのは何故だろう。
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「日本の新進作家 vol.13 東京・TOKYO」
「TOPコレクション東京・TOKYO」
2016年11月22日(火)−2017年1月29日(日)
10:00−18:00(木・金は20:00まで)月曜休館
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東京都写真美術館
http://www.topmuseum.jp