山本弘の作品解説(17)「骨の踊り」


「骨の踊り」、油彩F50号(91cmx116cm)
 制作年不詳だが、おそらく1970年代後半か。右下に「弘」のサインがある。これは晩年に特有のサインだ。それ以前は「Hirossi」とサインしていた。山本としては大きな作品だ。4体の骸骨がユーモラスに踊っている。逆立ちしているのもいるし、子どももいる。骸骨の回りに散らしている赤が効果的だ。山本の他の作品同様、バックの筆触が美しい。ことに右上部の藤色がなまめかしい。よく見ると右の骸骨と真ん中の骸骨の間に黒色で線描された猫がいる。落書きのようにも思えるし、生きている猫のようにも見える。猫はこの世からあの世を見ているのだろうか。
 山本にとって死は身近なものだったのだろう。それがこの絵にあらわれている。死に対して独特な姿勢をもっていたと思う。終戦を機にデカダンスに陥り何度も何度も自殺を試みた。
 最も好きだった妹が亡くなった時も、妻の愛子さんに葬儀への参列を禁じ、自分も列席することなく、徹夜で妹の絵を描いていたという。おそらく実際には見ることのなかった棺桶に横たわる妹を描いた絵や、臨終と題された美しい絵が描かれている。たしか「ミチコ」(亡くなった妹さんの名前)という題名の絵もあった。
 (遺族所蔵)