山本弘の作品解説(18)「ツツミの水神」

mmpolo2008-12-26





「ツツミの水神」、油彩F12号(50cmx60cm)
 1977年制作、飯田市中央公民館での1977年4月か、1978年1月の個展で発表された。2004年の銀座兜屋画廊での遺作展でも展示されている。ツツミというのは、当時山本の住んでいたアパートの近くにあった堤(つつみ)=池のこと。山本の住所も「長野県下伊那郡上郷町別府上つつみ下」となっていた。江戸時代に作られた水田の用水用の溜池だと思われる。近くにあった郭の娼婦が身を投げた池と伝えられていた。
 堤の脇に大きな水神の石碑があった。今はその堤が埋め立てられて上郷民俗資料館になっているが、水神の石碑は今も近くに建っている。(右上写真参照)
 山本はこの石碑が気に入ったらしく何度もモチーフに取り上げている。溜まったまま流れない水は深い緑色の表面を見せている。二つの白い帯は何かの反射だろうか、作品のアクセントになって効果をあげている。左上に描かれた水神の石碑のみ厚塗りで、それ以外は薄く塗られている。池の輪郭が濃く縁取られ、同じ色で書かれた右下の「弘」というサインも小さなアクセントになっている。下端中央の池の輪郭が微妙に乱れていて、作品に味わいを与えている。静かな風景だ。山本の内面を表しているのだろうか。あんなにも酔っぱらって騒いで世間の顰蹙(ひんしゅく)を買ったアル中の山本の本当の心の中を。

 (浅沼義生氏所蔵)