リービ英雄「越境の声」が面白い

 hainekoさん(id:haineko2003)に紹介されてリービ英雄の対談集「越境の声」(岩波書店)を読んだが、これが滅法面白かった。特に水村美苗との対談「日本〈語〉文学の可能性」が秀逸。

編集部  お二人は、そういう特殊な言語としての日本語にどうして魅かれたのでしょうか。魅かれた理由がお二人に共通しているというようなことはあるでしょうか。
水村美苗  それはあると思う。あんまりあたりまえのことなので、この場で今さらそんなことを言うのへんに聞こえると思うんですが、いちばん重要なのは、やはり日本語に書き言葉があったということじゃないでしょうか。それも高度に洗練された書き言葉が。自分もその場に参加したいと思わせるような書き言葉が。私にとっては日本近代文学があったということですが。もし私が書き言葉が存在しない文化から、12歳で英語の世界に行ったとしたら、あのように持続した望郷の念を持ち得なかったと思う。持続した望郷の念を持ち得たのは、日本の近代文学をくり返し読むことができたからであり、そうすることによって、初めて日本語に魅力を感じ続けることができたんですね。
(中略)
リービ英雄  昔、ぼくは水村さんと自分の共通点が日本語ナショナリストであることだと言っていましたが、あれは話し言葉に対してではなく、書き言葉に対してなんです。最終的に日本語を話せるか話せないかは、あまり大きな問題ではない。

 ついで大江健三郎との対談。

リービ英雄  (前略)たぶん彼(安倍公房)の文学的評価においても、あの旧満州の感触が残っている間はすごい作家だったのが、後半、たぶんそれが薄れてきて、より抽象的な表現になっていった。これがぼくの安倍公房に対する一つの理解の仕方です。

 安倍公房に対する評価はその通りだろう。抽象的になってからの安倍公房はあまり良くない。
 このほか、多和田葉子青木保莫言らと対談を行い、富岡幸一郎沼野充義と座談会をしている。このうち水村美苗との対談がすばらしい。ついで多和田葉子だ。リービと水村の作品を読んでみたいと強く思った。
 この本は今年になって読んだ内で最も充実した読後感を与えてくれた。