藤本ひとみ「離婚まで」を読んで知った公務員の驚くべき常識

離婚まで (集英社文庫)
 友人が藤本ひとみ「離婚まで」(集英社)を貸してくれて、この作家飯田市出身で、飯田が舞台なんだと言った。同郷の作家というわけだ。読み終わって何年も経つけれど強く印象に残っている場面がある。作家は杉並区役所に勤めていたらしい。公務員の意識がこんなだと驚いたのだった。
 本書より。

 業務終了を告げるウエストミンスターチャイムが鳴り終わると同時に、可奈子は、建築課を出る。以前は、その前に更衣室に行って事務服を脱ぎ、サンダルを靴に替えていた。それらは区役所職員にとって、ごく普通のことであった。しかし建築課に異動してから、課長に言われたのである。
「あのチャイム終了までが、仕事時間なんだ。着替えは、その後にするのが本当だと思うが、どうだろうね」

 課長の発言は常識だろう、民間企業では。公務員の常識を疑った。それがこの小説の一番大きな収穫だった。