大江健三郎「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」を読む

臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ 大江健三郎「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」を読んだ。少女陵辱の体裁を採っているが、これはまぎれもなく戦後日米関係史だ。ヒロインの映画女優の名前は「サクラ」、これは桜=日本を表している。
終戦後サクラは孤児になり、戦争の間軍医の助手をしていたディヴィッド・マガーシャックに保護され、アメリカへ渡りその後女優になり後に二人は結婚する。彼女はその保護者から幼い頃何かされたのではないかと長年疑いを解くことができなかった。「もし私が占領軍の将校に性的な奴隷にされた少女と見られていたら、そんな書き方は無理でしょう?」「そこでね、先生にディヴィッドと私の関係を、正しく把握していただきたかったの。庇護されて、可愛がられて、成人すれば自然に結婚まで進むし……それでいながら、性的な関係では、少女の思いこみの我が儘を通させてもらった」サクラとディヴィッドは正常な夫婦の性的関係を持たなかったと語られていた。
 これらはすべて戦後日米関係史のアナロジーだ。この小説で大江が書きたかったことは偏にこのことだったのだ。


 ちなみにタイトルは日夏耿之介訳によるポオの詩から採られている。日夏の詩の分かりづらいこと。詩人はわが故郷飯田市の出身で最初の名誉市民だ。有名なりんご並木に日夏耿之介の詩碑があるが、市民の99%は理解できないにちがいない。