追悼・永沢光雄

 「ちくま」2007年1月号に本橋信宏が「追悼・永沢光雄」という文章を載せている。永沢光雄の「AV女優」について。

 私が決定的に打ちのめされた一編は「倉沢まりや」編だった。私も彼女と話したことがあるが、男が勘違いするほど媚態的な子である。永沢光雄は、彼女を描写するのではなく、彼女がさんざ手玉にとり、人生を過たせた男たち、高校の教師、やくざ、ホスト、サラリーマン、実弟、といった人物群から見た倉沢まりやを物語ることで、倉沢まりやを見事に描ききった。この一編で、永沢光雄は"視点の移動"という高度な技法を用いている。
 また「AV女優」には収められていない一編では、裏方の立場であるマネージャーが、抱える女の子の未来を思い、あえて泥をかぶるときの葛藤を"神の視点"で描ききった。
 天才だと思った。数時間のインタビュー原稿をもとに、毎回毎回短編小説のように物語る力量は、永沢光雄にしかできないものだった。後にも先にも永沢光雄ほど表現の可能性を高めた書き手はいなかった。私は、文章修業をしている若者に、いつもこの二編をお手本にするようにと、勧めたものだ。