木村俊介『物語論』(講談社現代新書)を読む。簡単に言えばアーチストたちに対するインタビュー集だ。本書の「はじめに」から、
本書は、小説、漫画、美術、映画、音楽……といったさまざまな分野の方々から「ものを語ること」に関して聞かせていただいた考え方を並列に提示したい、という動機から作られている。
本書は雑誌の「週刊文春」「モーニング」「小説トリッパー」「小説現代」「文藝別冊」などで木村が掲載してきた取材記事を集大成したものだ。雑誌がいずれもメジャーなものなので、インタビュー相手も一流のアーチストばかりだ。
具体的には、村上春樹、橋本治、島田雅彦、重松清、桜庭一樹、是枝裕和、杉本博司、諏訪内晶子、根岸孝旨、中村勇吾、渋谷陽一、荒木飛呂彦、かわぐちかいじ、弘兼憲史、うえやまとち、平野啓一郎、伊坂幸太郎の17人だ。印象に残ったのが写真家の杉本博司の次の言葉だった。
私が芸術の世界に入るのはアメリカで生活をしたあとでした。1970年に立教大学の経済学部を卒業して、会社員にはなるまいと思ってアメリカへ行ったんです。
立教大学の頃はヘーゲルやマルクスやマックス・ウェーバーを読んでいて、これはのちに欧米人に作品を説明するのには役にたったのかもしれません。もちろん、理論で制作をするわけではないけど、論理が明らかでなければ欧米人には通じないので、三段論法などで説明しなければならないわけです。
杉本博司は村上隆、奈良美智と並んでアメリカで最も高額で取引されている日本人3人のアーチストの1人だ。この欧米人には理論的に説明しなければ作品を売り込めないとは、村上隆も東京都現代美術館の講演会で言っていた。
さて、豪華な対談者を揃えたこの『物語論』だが、実はあまりおもしろくなかった。何がいけなかったんだろう。私はすでに傑作『AV女優』(文春文庫)を読んでいる。これはインタビューアー永沢光雄によるアダルトビデオに出演している女の子42人へのインタビュー集だ。インタビューでもこれだけの傑作が書けるのだ。
・永沢光雄死去(2006年11月5日)
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