スタニスワフ・レム

あまり皆がほめるのでビデオを借りて、やっと「マトリックス1」を見た。これは「ブレードランナー」じゃんと言うと、事情通がいや「攻殻機動隊」だと教えてくれた。で、それも見た。


もう40年も昔「SFマガジンベスト」で筒井俊隆の短編を読んで強烈な衝撃を受けた。脳だけの存在になった人間とコンピュータを結んでバーチャルな体験を実人生だと思わせているというストーリーだった。ちなみに彼は筒井康隆実弟だ。これはデカルトに対する根本的な疑問だと思った。


36年前、スタニスワフ・レムの短編集「泰平ヨンの航星日記」(ハヤカワ・SF・シリーズ、袋一平訳)の中に同工のアイデアを見つけ、どちらがオリジナルかいぶかしんだ。


このアイデアがのちにフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」に影響を与え、これを原作に「ブレードランナー」が作られる。「攻殻機動隊」もこの延長上にあるのだろう。


筒井俊隆の短編は「消失」という題名で、最初兄弟で作っていた同人誌「NULL」に発表された(1961年)という。SFマガジンには1961年2月号に転載され、のちに「SFマガジン・ベスト2」(1964年4月)に収録された。私が読んだのがこれだった。


レムの「泰平ヨンの航星日記」に収録されているこの短編の初出は、「SFマガジン1966年11月号」に「泰平ヨンの航星日記−地球の巻」として掲載されたものだろう。原作は1957年だという。筒井俊隆はレムの翻訳より5年も早い。原作より4年遅れているが、筒井がポーランド語やロシア語で読んだとは思えないので、二人は別々に発想したのだろう。どちらも優れた才能だ。
(現在この短編は「泰平ヨンの回想記」(ハヤカワ文庫)の中に「第一話」として収められている。訳者は深見弾


筒井康隆も「マトリックス」を見て、これは弟だと言っていたらしい。