高木佐保『知りたい! ネコごころ』を読む

 高木佐保『知りたい! ネコごころ』(岩波科学ライブラリー)を読む。高木は同志社大学心理学部を卒業したあと京都大学大学院に入学し、行動文化学を学んでネコの心理を研究することになった。
 高木はネコにエピソード記憶があるか実験する。いくつかのエサを入れた皿を示し、見せるだけで食べさせないエサを、15分後に示したらどうするか? ネコたちは先ほど食べ損ねた皿のエサを訪問する個体が多かった。ここから猫にもエピソード記憶があることが確かめられた。
 つぎに、ネコに推理ができるか実験する。「推理」とは比較認知科学では、「間接的な手掛かりから直接的な事象を導くこと」を言う。この実験では「期待違反」を利用する。「期待違反」とは心理学用語の一つで、「自身の予測と異なることが生じると、その事象を長く見てしまう」ことだと言う。ネコの目の前で箱を振って、その後で箱をひっくり返す。箱を振って音がして、その後箱をひっくり返してモノが出てくればネコの期待にかなったことになるが、音がしたのに箱の中が空だったときや、音がしなかったのにモノが出てきたときは期待違反なので長く箱を見つめる事例が多かった。この実験からネコが推理していることが確かめられた。
 3番目の実験はネコが「飼い主概念」を持つかどうか。飼い主概念の有無は、視覚情報や聴覚情報、嗅覚情報などの多感覚の情報が統合されており、一つの情報を提示すると統合された他の情報も芋づる式に取り出される(飼い主の声を聞くと飼い主の顔を想像できる、など)ことで示される。これも最初に飼い主の声を聞かせて、次に飼い主もしくは他人の顔を映像で見せるという期待違反を利用した方法で実験し、飼い主概念を持っていることが確かめられた。
 最後の章で、ネコがリビアヤマネコから進化してきた過程が推測される。
 楽しく読んだのだけれど、私はふた月前に20年近く飼ったネコを亡くしていて少々ペットロスに陥っている。読後近くの公園へ野良猫を見に行ってきた。黒く汚れたネコが警戒しながら薮に消えていった。可愛い子猫が落ちていたら、もう飼わないとの誓いを破ってしまったかもしれない。直前にツイッターで見た、夕べ拾ったという子猫の映像が離れない。

 

 

知りたい! ネコごころ (岩波科学ライブラリー)

知りたい! ネコごころ (岩波科学ライブラリー)

  • 発売日: 2020/02/09
  • メディア: 単行本