河合隼雄×村上春樹『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(新潮文庫)を読む。ここで河合隼雄が夫婦について語っている。
村上 おたずねしてみたかったのですけれど、夫婦というのは一種の相互治療的な意味はあるのですか。
河合 ものすごくあると思います。だから苦しみも大変深いんじゃないでしょうか。夫婦が相手を理解しようと思ったら、理性だけで話し合うのではなくて、「井戸」を掘らないとだめなのです。
(中略)
ぼくもいま、ある原稿で夫婦のことを書いているのですが、愛しあっているふたりが結婚したら幸福になるという、そんなばかな話はない。そんなことを思って結婚するから憂うつになるんですね。なんのために結婚して夫婦になるのかといったら、苦しむために、「井戸掘り」をするためなんだ、というのがぼくの結論なのです。井戸掘りは大変なことです。だから、べつにしなくてもいいのじゃないかと思ったりもするんですよ。
村上 それはひとつの知恵ですね。
河合 ええ。自分は不幸だ不幸だと嘆いて、人に迷惑かけるぐらいだったら、離婚するのもひとつの方法ではないかと思います。
村上 何度も結婚する人がいますよね、3回も4回も。
河合 そういうのは大抵、井戸掘りを拒否しているんですね。井戸を掘るのはしんどいから、掘らないであちこち別の人を探しているけれど、結局、同じような人を相手にしていますよ。
河合隼雄と中沢新一の対談集『仏教が好き!』(朝日新聞社)でも、同じようなことを中沢新一が言っている。
中沢新一 僕は「なぜあなたは仏教に関心を持ったりして、仏教の修業なんかを始めたんですか」と聞かれることが多くて、そのたびになかなか本心を言わなかったんですけど、相手が河合先生だから(笑)白状してしまいます。僕は子どもの頃、現実の母親というものに共感できなかったんですね。このことに苦しんでいました。ですから逆に、そこから女性に対して強烈に惹かれるものがありました。よじれたコンプレックスができちゃったんでしょうね。青年に近づくと、たくさんの女性と親しくなるようになりました。でも、どの女性ともそんなに長くいっしょにいられない。そこで、つぎつぎと相手を替えていくことになります(笑)。
中沢も、「結局、同じような人を相手にしていますよ」ということなのだろう。
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