JCII フォト・サロンで南良和作品展「秩父三十年」を見る


 東京千代田区一番町のJCII フォト・サロンで南良和作品展「秩父三十年」が開かれている(5月6日まで)。南は1935年、埼玉県秩父生まれ。東京綜合写真学校を卒業している。今回の写真展「秩父三十年」は1957年から1991年までの秩父の農民の生活を撮ったものを展示している。とにかく圧倒される内容だった。
 ギャラリーのホームページに掲載されている展示内容

今回の作品展は、「秩父三十年 ―1957〜1991―」と題して、1957年から91年まで秩父と向かい合い、そこに住む人や生活を追い続けてきた作品をご覧いただく。
労働が過重なこと、封建的であること、嫁姑問題、お金が自由にならないことなど、多くの問題を抱えながら、農民たちは秩父で生活していた。氏がテーマとして選んだのは「嫁不足」の問題で、農民の実情をカメラで捉え、多くの人に訴えることが私のテーマであると、時には共に畑仕事をして閉鎖的な人々との交流を持ってきた。
結婚式の様子や伝統的なお祭り、田んぼの水をめぐっての争い、畑作業の様子、そして車で仕事に行き来する若者など、次第に生活が変わりゆく様子、やがては、この生活の変化により人々の人間関係も変わっていく様子がみてとれる。
変わりゆく時代を共に過ごしたことで、農家の光と影に焦点をあて、弱者への優しく見守る眼差しを感じることができる作品約80点(全作品モノクロ)を展示する。

 80点ほど並べられた写真のうち、印象に残った写真のキャプションを控えてきた。年月は撮影日。
・「21歳の嫁の手」1963年5月:21歳というのにひび割れてまるで60歳の手のようだ
・「傾斜地の運搬」1961年6月:急な傾斜地を重い荷物を肩に担いで運んでいる
・「リアカーの夫婦 2人で183歳」1961年2月:お爺さんがリアカーを引き、お婆さんが押している、90歳と93歳くらいか
・「もの言わぬ老人 水あらそいの見張り」1966年9月:気難しそうな老爺の顔
・「75歳の桑運び」1964年6月:老婆が自分の背丈より高く積み上げたしょいこの桑を担いでいる
・「電話交換手」1968年7月:農家の一角のような場所で40代くらいの小母さんが電話交換手をしている
・「農閑期の母子」1969年9月:胸をはだけた農婦が幼い子に乳をあげている
・「成人式(上記の母子の20年後)」1989年1月:幸せそうな娘と母親
 30年から50年ほど前の秩父の農村=日本の農村の生活はこんなにも苛酷だったのだ。長いこと忘れていた。南が地域に密着して記録していたものは、たまたま取材でその地域に出掛けた写真家のそれとは全く異なり、地域のことを表面的ではなく深いところから理解している写真だ。それでも、撮影を始めて20年ほどたった頃、写真展を開いたときに老婆から、17年や20年写真を撮ったくらいで村のことが分かったと思うなと言われている。
 南は多くの受賞歴がある。主なものだけでも、太陽賞日本写真協会年度賞、土門拳賞、伊奈信男賞など。写真集も岩波書店平凡社家の光協会等々多数あるようだ。
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南良和作品展「秩父三十年」
2013年4月9日(火)〜5月6日(月・祝)
10:00〜17:00(月曜休館、祝日の場合は開館)
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JCII フォト・サロン
東京都千代田区一番町25番地JCII ビル1F
電話03-3261-0300
http://www.jcii-cameramuseum.jp
東京メトロ半蔵門線半蔵門駅4番出口徒歩4分