藤原えりみ『西洋絵画のひみつ』に教えられる

 藤原えりみ『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)を読んで、いろいろ教えられた。本書はいわゆるヤングアダルト向けに書かれた西洋美術の入門書というか、キリスト教美術の図像の意味を教えてくれる図像学の入門書だ。半分以上の漢字にルビが振ってある。中学生でも読めるだろう。朝日出版社の広告から、

聖書の時代から印象派の時代まで、美術にまつわる4千年をこの一冊で。西洋美術を根っこから理解するための、いちばんわかりやすくて深い絵画入門。

 そんなに易しい入門書なのに、私には勉強になることばかりだった。マリアの受胎告知の場面はしばしば、天使は左側に、マリアは右側に描かれている。それは天使の「おめでとう、恵まれた方、主があなたと共におられる」という言葉が、画中に左から右に書かれることがあったからとか、美の基準が時代と地域によって変わることを、15世紀のファン・エイク兄弟のエバとその50年後のボッティチェリのヴィーナス、17世紀のフランドルのヨルダーンスのリュディア王の妻の3人のヌード像を並べて教えてくれる。ファン・エイクは下半身デブで、ヨルダーンスは「脂肪たっぷりの肉体」なのだ。15世紀のファン・デル・フース描くアダムとエバの絵では、リンゴを食べさせた蛇は、姿はトカゲ、顔は人間に描かれている。
 著者の藤原とは彼女のご主人をまじえて酒席で話したことがある。5年ほど前だった。その頃、本書の原型となった『ブルータス』の特集「西洋絵画を100%楽しむ方法。」が出たのだった。


西洋絵画のひみつ

西洋絵画のひみつ