「記憶に残っていること」(新潮クレスト・ブックス短篇小説ベストコレクション)

 新潮社に「クレスト・ブックス」という海外文学を集めた叢書があり、それの発行点数が100点になったということで、記念に短篇集が編まれた。編者は堀江敏幸で「記憶に残っていること」(新潮クレスト・ブックス短篇小説ベストコレクション)。クレスト・ブックスの短篇集の中から、一作家一短篇を選んで10人の10作品でアンソロジーを作った。その10作品は次のとおり。

デイヴィッド・ベズモーズギス「マッサージ療法士ロマン・バーマン」
アンソニー・ドーア「もつれた糸」
エリザベス・ギルバート「エルクの言葉」
アダム・ヘイズリット「献身的な愛」
ジュンパ・ラヒリ「ピルザダさんが食事に来たころ」
イーユン・リー「あまりもの」
アリステア・マクラウド「島」
アリス・マンロー「記憶に残っていること」
ベルンハルト・シュリンク「息子」
ウィリアム・トレヴァー「死者とともに」

 読み始めて最初の期待が大きかったためか、少し辛口の評価になってしまうが、「ニューヨーカー」に掲載されるようなちょっとしゃれた、しかしそれだけの作品ではないかという印象を持った。しかし優れた作品もあって、アダム・ヘイズリット「献身的な愛」とジュンパ・ラヒリ「ピルザダさんが食事に来たころ」はすばらしかった。ラヒリはインド系の2世、大きな事件が起きるわけではないが、感動が待っている。仲の良い姉弟が裏切り合うヘイズリットのとても辛い話も、ほんのわずかな救いが印象的で忘れられない作品になっている。
 私のような偏見なしに本書を読めば、十分満足できる優れたアンソロジーと言えるだろう。