中沢新一『アースダイバー 神社編』を読む

 中沢新一『アースダイバー 神社編』(講談社)を読む。これがめっぽう面白かった。中沢は全国の古い神社の歴史を探り、そこから日本の古層へとダイビングしていく。縄文から弥生~古墳時代の、歴史に書かれていない古い姿を掘り出していく。取り上げられているのは、秋田の鹿角大日堂、諏訪大社出雲大社大神神社(三輪神社)、そして対馬神道、アヅミの神道、伊勢湾の海民たち、最後に伊勢神宮

 第一部で伊勢神宮の古層的世界へと題された一節。

 

(……)伊勢神宮の伝統としては、この神器(八咫の鏡)よりも、正殿床下にある「心の御柱」にたいする儀礼の方が、より大きな重要性をあたえられていた。

古層的世界へ

「心の御柱」はじつに神秘的な柱である。150センチほどの長さの檜の小柱で、大半の部分を土中に埋められている。地上にわずかに顔を出している部分は、まわりを五色の布でぐるぐる巻きにして、それを榊の枝で覆い、その上から皿状の土器を何百枚ものせて覆ってあって、外からは見えないようになっている。

 この床下の土中に突き立てられた「心の御柱」の前で、三節祭が、深夜密かに執り行われる。古代から天皇は、自分の妹や姪を「斎王」として、神々への奉仕に一生を捧げるべき女性として、伊勢神宮に送り込んでいた。しかし、不思議なことに、伊勢神宮でもっとも重要な神祭である三節祭に、この斎王は参加せず、かわって土地の豪族から選ばれた少女が「斎女」として、この深夜の床下の秘儀を、一人で執り行うことが定められていた。

「心の御柱」が性的なシンボル、しかも男性シンボルであることは、神宮内では古来なかば公然の秘密であったらしい。この柱にたいして、大物忌とも呼ばれた少女が、真夜中に奉仕をおこなうのである。ことの意味はほとんど明白である。(中略)

 大地の奥深くに潜んでいる神聖なエネルギーは、ふだんは頭だけを地上に出して、土器皿の呪力に抑えられている。少女が柱に接近すると、その力はむくむくと立ち上がり、床下の密封された室の中で、少女からの奉仕を受ける。陰陽の和合を果たしたエネルギーは、現実世界に向かって突き上がっていき、屋根の頂上から渦を描いて、外に向かって広がっていく。ここにあるのは、オーストラリア・アボリジニ―の「虹の蛇」をめぐる思想の、洗練を極めた表現にほかならない。伊勢神宮を形成する精神地層の最深部は、広大な人間精神の古層にまっすぐつながっている。

  

 こんな具合にとても面白い。ただ、面白いということは、厳密な考証を経ていないことでもある。しばしば眉唾な主張も少なくない。だが、大胆に暴かれた日本の古代史はやはりとても魅力的だ。