東京国立近代美術館の「生誕110年 片岡球子展」を見る



 東京国立近代美術館で「生誕110年 片岡球子展が開かれている(5月17日まで)。1905年生まれ、2008年に103歳で亡くなった日本画家、文化勲章を受章している。
 「面構」シリーズが代表作で、それらのいくつかは図版などでしばしば見かけるし、作品も何点かは見ていた。しかしこんな風にまとめて見るのは初めてだった。
 最初の部屋に49歳の時に描いた「飼育」と題する作品が展示してある。思わず笑ってしまった。小学生の子どもたち3人が鶏の世話をしているらしい。最初、真ん中の男の子が人形かと思った。両脇の女の子も形が取れていない。球子は下手だよとは聞いていたが、こんなだとは想像もしていなかった。会場を進んでいったが、球子はちっともうまくならない。よくこれで大家になれたものだとあきれた。
 ようやく61歳のときの「面構 足利尊氏」「面構 足利義満」「面構 足利義政」が並んでいる。これは良かった。なるほど球子の作品だ。続いて66歳になってからの作品、面構の浮世絵シリーズ「北斎写楽」や三代豊國などが並べられている。このあたりが球子の面目躍如といったところか。
 なぜあんなに下手だった球子がここで成功したのか。尊氏や浮世絵の人物画を作品に取り込んだためだろう。日本の古典画や浮世絵は西洋伝来のデッサンとは別の方法を使っている。西洋の見方からすれば、日本の絵画のデッサンは狂っている。そこへ球子が入っていったので、下手でデッサンが狂っているとしか見えなかった球子の作品が別の文脈で評価されることになったのだろう。球子の絵から西洋画の価値観を取り去れば、そこにはおもしろい画面が現れてくる。色彩が優れていることも高い評価につながるのだろう。
 しかし、最後に並べられていた雪舟は顔こそ雪舟であるものの、肢体の構造がよく分からないし、晩年に描き始めた裸婦のポーズシリーズは、ほとんど素人の作品みたいだった。西洋絵画の土俵に戻ったら、球子は単なる下手な画家に過ぎないのだった。
 片岡球子のことがよく分かっておもしろい展覧会だった。
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ちらしの上が「面構 足利尊氏」、下が「面構 北斎

上の写真の左が「飼育」(49歳)、右が「枇杷」(25歳)
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生誕110年 片岡球子
2015年4月7日(火)→5月17日(日)
10:00〜17:00(金曜日は20:00まで)
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東京国立近代美術館
ハローダイヤル03-5777-8600
http://www.momat.go.jp