司馬遼太郎「街道をゆく」全43巻は好きな作品で、朝日文庫で刊行されるのがとても楽しみだった。それに比べて司馬の小説はなぜか読む気になれなくて、1冊か2冊しか読んでないのではなかったか。特に英雄を描いた時代小説が苦手だったように思う。
最近、司馬遼太郎「ひとびとの跫音」(中公文庫)を読んだ。たぶん20数年ぶりの再読だった。この作品は正岡子規の死後の養子正岡忠三郎とその友人西沢隆二(またはニシザワ・タカジ、ペンネームぬやま・ひろし)について、それから二人と子規を中心とする友人、知人たちについて書かれている。二人は英雄ではないし、司馬と実際に付き合いもあった人たちだ。そんな理由で彼らを司馬がオーバーに祭り上げないから好きなのかもしれない。
忠三郎は子規の養子でありながら子規について書くことがなかった。西沢隆二は戦前日本共産党に入党し、非合法活動の結果検挙され十数年を刑務所で過ごした。戦後は徳田球一の娘婿ということもあってか共産党の幹部となり、のちに除名される。
西沢は誰にも「タカジ」と呼び捨てにさせる。幼い子どももタカジと呼んでいる。刑務所で作って暗記していた詩をペンを持つことを許可された時にすべて書き記した。それが後日「編笠」と題して出版された詩集だ。
二人はとても変わっている。そして司馬はそんな彼らに暖かい目を向ける。あまり近寄らずにゆるゆると書かれた伝記。こんな風な伝記があっても良いのか。
司馬遼太郎では他に「ロシアについて」「草原の記」「アメリカ素描」を読んだが、これらはどれも素晴らしかった。
- 作者: 司馬遼太郎
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