「言葉」の詩2題、再掲載

 言葉をテーマにした現代詩が二つあった。一つは川崎洋の「鉛の壁」だが、もう一つが思い出せなかった。しかたなくたまたま見つけた谷川俊太郎の「ほん」とセットにして、「詩2題」としてアップした。
http://d.hatena.ne.jp/mmpolo/20070714
 最近ようやくもう一つの詩を思い出した。田村隆一の「帰途」だった。
 改めて、詩2題。

   帰途
              田村隆一


言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか


あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ


あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう


あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか


言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで掃ってくる

   鉛の塀
              川崎 洋


言葉は
言葉にうまれてこなければよかった

言葉で思っている
そそり立つ鉛の塀に生まれたかった
と思っている
そして
そのあとで
言葉でない溜息を一つする