小森収インタビュー集『はじめて話すけど……』を読む

 小森収インタビュー集『はじめて話すけど……』(草原推理文庫)を読む。小森収が8人の作家や編集者たちにインタビューしたもの。明確なテーマを決めて、そのテーマに絞ってインタビューしている。各務三郎早川書房の『ミステリマガジン』の編集長だった。各務にはミステリの魅力を語ってもらった。作家の皆川博子には、皆川博子になるための若いころの読んだ136冊の本について聞いている。劇作家・演出家の三谷幸喜には「作戦」ものの映画やテレビドラマについて語ってもらった。三谷幸喜はタイトルに「作戦」と入っている作品が好きだという。ミステリ作家の法月綸太郎はミステリ作家のアントニイ・バークリーを語っている。石上三登志はミステリなどの評論家、ミステリ論を聞き出している。

 その石上三登志の発言で、「ロス・マクドナルドは、知らなくても読めるかもしれないけれど、フロイトを知ってた方が、よっぽど面白いんですね」と言っている。また、日本の社会派ミステリについて、

小森  ちょっと観念的というか仮定の議論になりますが、社会派が社会派らしい名探偵を持てなかった。それは、なぜなんでしょうね。

石上  ひとつには国と日本的な家庭のありよう。村八分しちゃうような、単位としての家庭。それの集積としての組織。会社もひっくるめてね。あるいは国家。その一番の根っこのところに、天皇がいる。結局、そこが誰も打ち破ることのできない聖域ですよね。そういうものがベースになっていると、理性的な意味でのたとえば企業の物語なんか書けないと思う。だから、謎解きものは、ある種ファンタジーになってしまう。あるいは古い世界と新しい世界の相克中心になってくる。それが横溝(正史)さんじゃないのかなという気はします。

 

 シェイクスピアの戯曲を全訳した松岡和子にはシェイクスピアの翻訳について聞いている。セゾン劇場で『十二夜』の演出をしたエイドリアン・ノーブルの教えとして、シェイクスピアの芝居で「食べ物が出て来たら、ほぼ100%、セクシュアルな意味があると思ってなさい」と、その時演じた俳優に伝えたという。

 イラストレーターでありグラフィックデザイナーである和田誠は、映画監督や文筆の世界でも活躍した。和田が市川崑の映画『愛人』を見てバタくさいと思ったと言ったのに対して、小森がほかにバタくさいと感じた方はいるかと尋ねた。

和田  たとえば、村上春樹の文体とか、伊丹一三時代のエッセイとかね。はじめて読んだときに、あ、こういうエッセイ書ける人がいるんだ、という思い方というかね。(※伊丹一三伊丹十三のこと)

 このように特定のテーマに絞ってインタビューしたのは深掘りできて面白かった。