山崎努『「俳優」の肩ごしに』(日本経済新聞出版)を読む。山崎が昨年の8月に「日本経済新聞」に連載したもの。初め幼少の頃の思い出から書き始めている。最初はちょっと危なっかしい。大丈夫かなと危惧しながら読む。ところが俳優を志してから筆が乗り始める。芥川比呂志の『ハムレット』を見て、自分もハムレットを演じたいと決意する。叔母に相談する。「あのねえ、役者っていうのはねえ、いい男がなるもんなの。(……)おまえみたいなカオで……。バカなこと考えるもんじゃないよ」。反対される。
俳優座養成所に入る。授業でチエホフの「結婚申込み」の求婚者を演じたとき、失神する。ろくに飯も食わず貧血ぎみだったから。
ある日。同期の河内桃子さんが、廊下ですれ違いざま、手を握ってきた。ん?! 立ちすくんだ。拳の中に」小さくたたんだ千円札があった。ラブレターではなかった。
当時僕はひどい格好をしていた。よれよれのジーパンにぱっくり裂けたビニール靴、その靴を布で巻いて履いていた。その上栄養失調で演技中に倒れる。桃ちゃんは同情して、他人に気付かれないように小さく折ったお札をそっと手渡してくれたのだ。
当時の千円は今の2万円くらいだろうかと書いている。
初舞台は三島由紀夫の『熱帯樹』。ヘタ、アウト、山崎を降ろそうという動きまであったくらい。黒澤明の『天国と地獄』の犯人役をオーディションでもらう。それが評価され、この後『赤ひげ』『影武者』に参加した。
最後の舞台という新国立劇場こけら落としの公演『リア王』については、山崎は『俳優のノート』という名著を書いている。本書もそれに劣らず素晴らしかった。
・山崎努『俳優のノート』を読んで
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