高樹のぶ子『小説伊勢物語 業平』を読む

 高樹のぶ子『小説伊勢物語 業平』(日本経済新聞出版)を読む。小説を読むなんて今年やっと数冊目だろうか。久しぶりに読んだせいかかったるいという印象だ。評論集ならさっさと主張なりテーマなりが提示されるのに、小説はぐだぐだ続いてなかなか本質に触れられない。いや、それは高樹に限ったことではなく、小説の性格なのだ。

 さすがに高樹は『伊勢物語』を原本に在原業平を見事に描いている。1200年も昔のことを描くのは至難の業だろう。真実っぽく書けばリアルさが感じられないし、本当の真実は時代が離れすぎて誰にも書くことはできない。

 しかし高樹は見事に書いている。1200年前のことだから、霧に包まれた風景を見るようにおぼろに、また望遠鏡を使って見たときのように一部分だけが周囲と離れて鮮明に見えるように描写している。

 業平はハンサムで数々の女人と逢瀬を重ねながらも、一人一人の女人との関係で悩み苦しんでいる。私には到底縁のない世界だが、身近に今業平のような友人を見ているので、業平の存在が腑に落ちる。

 高樹のぶ子は昔朝日新聞に連載していた『百年の予言』を拾い読みしていたくらいで、ちゃんと読んだのは初めてだった。

 やっぱり小説は苦手だと思ったことだった。

 

 

小説伊勢物語 業平

小説伊勢物語 業平