サリンジャー『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年』を読む

 サリンジャー『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年』(新潮社)を読む。アメリカでは単行本に収録されていない中短篇を編集したもの。アメリカで収録されていなかったが、日本では何種類かの版で翻訳、出版されていた。本書には8つの短篇と1つの中篇が収録されている。中篇「ハプワース16、1924年」は100ページほどもあり、サリンジャーが生前発表した最後の作品だという。一度単行本にする計画があって、サリンジャーも同意していたが実現しなかった。ただし発表時の読者の評判は驚くほど悪かったという。
 その他8つの短篇は、『ライ麦畑〜』のホールデンがらみが6編、ホールデンの兄はヨーロッパ戦線で戦死し、ホールデンは太平洋戦線で行方不明となっている。他の2編はホールデンとは無関係。
 「ハプワース16、1924年」はグラース家ものの最後の1編で、7歳のシーモアが5歳の弟のバディとともに夏のキャンプ教室にきている。そのシーモアが父母に宛てて書いた長い手紙という形になっている。シーモアは天才児だから難しい言葉を苦も無く駆使し、難解な思想を語っている。性についても言及し、ちょっとついて行きにくい。7歳ではなく17歳の設定でもおかしくないくらいだ。
 幼児が主人公になって語るといえば、フランスのヌーヴォー・ロマンの女性作家モニック・ウィティッグの『子供の領分』を思い出す。「白水社新しい世界の文学」叢書の1冊だった。幼い女の子の一人語りという体裁だったように思う。解説で単純な文法で書いているとあったような。「ハプワース16、1924年」と違い、退屈な小説だった。
 サリンジャーは1965年に「ハプワース〜」を発表後一切の発表をやめてしまって隠遁する。数年前に亡くなったが、発表しなくても書き溜めた作品がいくつもあるはずだ。それらを読むことが出来る日は来るのだろうか。