日本大学文理学部 編『知のスクランブル』を読む

 日本大学文理学部 編『知のスクランブル』(ちくま新書)を読む。副題が「文理的思考の挑戦」で、日本大学文理学部の18人の研究者が、自分の専門領域を語っている。哲学、歴史、国文学、中国語中国文化学、英文学、ドイツ文学、社会学社会福祉学、教育学、体育学、心理学、地理学、地球科学、数学、情報科学、物理学、生命科学、化学と幅広い。ただ全体で300ページ足らずの小さな新書だ。担当するページは一人約15ページと少ない。
 哲学は永井均が書いている。永井の哲学はかなり特殊なものだ。これが哲学を代表するというのはちょっと辛い。国文学の佐藤至子は古典と二次創作=パロディ―という意外な視点で語っている。中国語中国文化学の三澤真美恵は映画を取り上げている。三澤は侯孝賢ホウ・シャオシェン)の『悲情城市』や揚徳昌(エドワード・ヤン)の『クーリンテェ少年殺人事件』などのニューシネマの後の長期低迷を救ったのは、魏徳聖ウェイ・ダーション)の『海角七号 君想う、国境の南』だという。ではこの映画は見てみなくちゃ。
 マイルズ・チルトンの英文学についての文はいただけない。単純に英語が世界の中心言語だというテーゼを何ら疑うことなく前提としている。ドイツ文学の初見基はナチとユダヤ人問題を取りあげている。教育学の広田照幸はシロウト教育学を批判し、教育学が簡単でも単純でもないことを教えてくれる。体育学の青山清英が現象学哲学のフッサールを引用していて驚いた。地理学の矢ケ崎典隆も面白い。砂糖を取り上げてサトウキビやテンサイの栽培地の変遷や加工地の盛衰を教えてくれる。
 地球科学の安井真也は火山を取り上げている。浅間山の噴火を例に火山の仕組みを詳しく語っている。それが概論に通じているから興味深い。市原一裕の数学に関する話も難しかったが面白かった。物理学の十代健はウイスキーの水割りを例にとってブラウン運動を説明してくれる。その中で、むかし通っていたスコッチバーのマスターから美味しいウイスキーの飲み方を教わったと、その飲み方を披露している。まずストレートで飲み香りを楽しむ。次に1滴か2滴の水を垂らす。ほとんどストレートのままだが嘘のように味がマイルドになるという。これ実行してみたいが、家にウイスキーがない。
 どの学問もその輪郭は知っているつもりだったが、なかなか面白かった。日大文理学部の宣伝でもあり、各学科の紹介でもあるのだろう。受験生にとってとても参考になるのではないか。また私のようなおっさんにも十分役にたったと思う。


知のスクランブル: 文理的思考の挑戦 (ちくま新書 1239)

知のスクランブル: 文理的思考の挑戦 (ちくま新書 1239)