原田マハ『楽園のカンヴァス』(新潮社)を読む。ふだんあまり小説を読まないが、美術業界が舞台のようなので手に取った。謎のコレクターが所有するアンリ・ルソーの絵の真贋を巡って、美術館の学芸員と女性研究者が対決する。説得力のある鑑定をした者にその絵の所有権を譲るという。
これは最近読んだアーロン・エルキンズ『画商の罠』(ハヤカワ文庫)とほとんど同じ構図だ。エルキンズではレンブラントとレジェの絵を巡って学芸員と美術評論家がその真贋を鑑定するとなっていた。やはり正しい鑑定をした者にその絵が提供される。
『楽園のカンヴァス』は楽しめた。十分におもしろかった。さすがベストセラー小説だ。ただ少しだけ不満もある。主人公の早川織江の性格の造型に疑問が残る。現在の美術館の監視員を務める控えめな彼女と、若い頃のバリバリの研究者だった頃の攻撃的な性格の彼女との整合性がとれていない。『画商の罠』ではあんなにも慎重だった真贋の同定の手続きが、本書ではただ物語を読むことで結論つけるという不思議な鑑定方法が採られている。健康を害していてやっと生きているというルソーに大作を2点も描かせると言うのも説得力がない。ラストに大きな展開があるのに、それへの伏線が不足している。だから最後が唐突に感じられてしまう。全体に構成のツメが甘いと思う。
本書の枠組みと『画商の罠』との酷似は、これだけ似ていれば意図したものなのだろう。原田のエルキンズへの挑戦と思われる。しかし、勝負はエルキンズのものだろう。

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