イギリスのノーベル賞作家ドリス・レッシングの「グランド・マザーズ」を読んで

 しばらく前の朝日新聞の書評欄で鴻巣友季子がドリス・レッシングの短編集「グランド・マザーズ」(集英社文庫)を推薦していた。

 2007年、長年ノーベル文学賞「候補」に挙げられてきた英国作家レッシングが、同賞最高齢の88歳でついに受賞した。「黄金のノート」などで名は知られていながら、邦訳書は意外と少ない。受賞を機に、本書のような、物語を読む愉悦を心から味わえる作品集が訳されたことに喝采を送りたい。
 ペルシャ(現イラン)生まれ、南ローデシア(現ジンバブエ)育ち。非西洋圏出身の作者の小説は、政治やジェンダーの観点から解釈されがちだ。しかし例えば、蒼い海のイメージに彩られた表題作を一読すれば、それが断罪や批判から最も遠いものであることが判るだろう。海辺でくつろぐ2人の女とその息子たち孫たち。幸福に充ちた図に突如ピッと薄い亀裂が走ると……。ミステリーで言えば倒叙法によって、序盤での「美しい絵の崩壊」がなぜ起きたのかが、緊密な文体で淡々と綴られていく。(後略)

 こう書かれたら読みたくなってしまうだろう。しかし小説はほとんど説明によって書かれていくかのようだ。描写が少ないのだ。粗筋(スクリプト)を読んでいるような気がする。吉田知子の「山鳴り」だったかを思い出した。
 ノーベル文学賞を88歳で受賞したということは、ノーベル財団が積極的に賞を授与したといえないのではないか。31歳で処女作を上梓しているのだから、この年齢は遅すぎる受賞だ。SFめいた「最後の賢者」を読みながら、これならカズオ・イシグロの「私を離さないで」での方がはるかに良いと思った。


グランド・マザーズ (集英社文庫)

グランド・マザーズ (集英社文庫)