高橋一清『編集者魂』を読む

 高橋一清『編集者魂』(集英社文庫)を読む。副題が「私の出会った芥川賞直木賞作家たち」で、14人の作家たちが取り上げられている。司馬遼太郎松本清張和田芳恵立原正秋阪田寛夫中上健次有吉佐和子、中里恒子、芝木好子、江藤淳辻邦生大岡昇平遠藤周作中野孝次らだ。どうせ編集者の、俺がこの作家を売り出したのだくらいの手柄話ではないかと半ば高を括って読み始めたのだがそうではなかった。真摯な優れた編集者だと思う。
 とくに中上健次の章が良かった。中上の言葉。「(新宮市で)この町を焼き滅ぼしてやりたいと思うことがある」「一清さんが、初めて俺を人間あつかいしてくれた」「一清さんに出会わなければ、俺は永山則夫になっていたかもしれない」。
 和田芳恵に会って『文學界』への執筆を頼むと、最近の3号を送ってくれと言われる。その後、書かせていただきますと言われた。

あの3号で何を見られたか、尋ねた。その折の和田さんの答えは、文藝誌の編集にたずさわる者が留意すべきこととして忘れることはない。
「新人の小説を読んだ」。既成の作家の作品は、書かれたまま載るが、新人の作品は編集者が納得いくまで書き直しを求めている。それを見れば、編集部の求める作品の水準がわかる。
「座談会や対談を読んだ」。そのまとめ方で、編集者の能力や知識のほどがわかる。
「特集企画の題名と割付けをみた」。これで編集者の感覚がわかる。

 本の装幀について、

 ある出版社では、文藝書を田村義也さんと菊地信義さんの2名に限定して、振り分けて依頼していた。これはどう見たって、手抜きである。個性のある作家たちの仕事が、2つにしか分けられないなど私には考えられない。

 中野孝次のベストセラー『ハラスのいた日々』を書かせたのも、題名を提案したのもこの編集者だった。


編集者魂 私の出会った芥川賞・直木賞作家たち (集英社文庫)

編集者魂 私の出会った芥川賞・直木賞作家たち (集英社文庫)