シューベルトと吉本隆明の孤独

 梅津時比古「冬の旅ーー24の象徴の森へ」(東京書籍)はシューベルトの歌曲集「冬の旅」を分析している。詩はミュラーだ。

第12曲「孤独」


澱んだ風が
もみの梢を揺らすとき
一片の暗い雲が
澄みわたった空を漂うように


ぐったりした脚をひきずって
自分の道をたどる
明るく楽しげな人々のなかを
独りっきりで、声を交わすこともなく


ああ、なんと安らかな大気!
ああ、なんと明るい世界!
吹きすさぶ嵐のなかでも
こんなには惨めでなかったのに


(中略)
 孤独は、ふたりから生じる。影は光が無ければできないように、孤独は独りのときではなく、ふたり以上との関係において、突きつけられる。
(中略)
〈安らかな大気〉のなか、〈光に満ちた世界〉を〈明るく楽しく生きている〉他者に出会うことによって、主人公の孤独が極まる。他者こそが孤独の象徴であるという、引き裂かれた世界である。

 わたしたちは吉本隆明を思い出す。吉本の「少女」全編。

えんじゅの並木道で、背をおさえつける
秋の陽なかで
少女はいつわたしとゆき遭うか
わたしには彼女たちがみえるのに 彼女たちには
きっとわたしがみえない
すべての明るいものは盲目とおなじに
世界をみることができない
なにか昏いものが傍をとおり過ぎるとき
彼女たちは過去の憎悪の記憶かとおもい
裏ぎられた生活かともおもう
けれど それは
わたしだ
生れおちた優しさでなら出遭えるかもしれぬと
いくらかはためらい
もっとはげしくうち消して
とおり過ぎるわたしだ


小さな秤でははかれない
彼女たちのこころと すべてのたたかいを
過ぎゆくものの肉体と 抱く手を 零細を
たべて過酷にならない夢を
彼女たちは世界がみんな希望だとおもっているものを
絶望だということができない


わたしと彼女たちは
ひき剥がされる なぜなら世界は
少量の幸せを彼女たちにあたえ まるで
求愛の贈物のように それがすべてだそれが
みんなだとうそぶくから そして
私はライバルのように
世界を憎しむというから