コンセプトとしての「白いクラウン」

 会社の若手社員にコピーライター養成講座に通わせた時、彼女の持ち帰ったテキストを見て驚いた。「コンセプト」という考え方の例としてトヨタの「白いクラウン」が挙げられていたのだ。35年前私も同じ講座(私は通信教育)で学んだのだが、その時も同じ「白いクラウン」が取り上げられていた。ということはこれはとびっきりの成功例なのか。
 戦後1955年に生まれたトヨタクラウンは高級乗用車として主に公用車、社用車など運転手付きの車として使用された。1962年のモデルチェンジについで1967年に3代目のクラウンが発売された。その時トヨタは新しいクラウンを、それまでの社用車から自家用車へと販路を拡大することを意図して「白いクラウン」というコンセプトを採用した。広告に白いクラウンを登場させキャッチコピーも「白いクラウンは幸せなハイライフの象徴です」と謳った。この広告戦略は成功し、クラウンが自家用車として普及していった。
 この「コンセプト」という言葉の広告界での意味は、「その商品の特性を一言で表したもの」なのだ。クラウンが社用車であった時クラウンは黒い車だった。それを自家用車に使ってもらおうと考えたときに選ばれたコンセプトが「白いクラウン」だった。
 広告戦略を立てるときにまず商品特性をつかみ、販促対象を見きわめてその商品のコンセプトを作る。そのコンセプトに従ってキャッチコピーやヴィジュアルを絞っていく。そのように教えられた35年前のテキストをまだよく覚えている。それがいまも同じように紹介されていることに驚いたのだった。