「画廊からの発言 新世代への視点2022」が始まった



 東京銀座・京橋を中心とする現代美術の画廊が共同主催する「画廊からの発言 新世代への視点202Ⅱ」が始まった。これは恒例の7軒の画廊が推薦する40歳以下の若手作家7人の個展だ。現代美術の代表的な貸画廊が選んだ作家たちだから見逃せない重要な企画で、7月25日から2週間開かれる(8月6日まで)。

 8つの画廊とそれぞれ取り上げている作家は次のとおり。

 

・ギャラリーなつか:桑原理早

http://gnatsuka.com/

 

・コバヤシ画廊:藤森哲

http://www.gallerykobayashi.jp/

 

・ギャラリイK:新直子

http://galleryk.la.coocan.jp/

 

・ギャルリー東京ユマニテ:西村藍

https://g-tokyohumanite.com/

 

・藍画廊:吉田絢乃

http://igallery.sakura.ne.jp/

 

・ギャラリーQ:大渕花波

http://www.galleryq.info/

 

・ギャラリー58:荒瀬哲也

http://www.gallery-58.com/

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「画廊からの発言−新世代への視点202Ⅱ」

20201年7月25日(月)−8月6日(土)

11:30−19:00(最終日17:00)全画廊:日曜休廊

 

 

村上春樹『一人称単数』を読む

 村上春樹『一人称単数』(文藝春秋)を読む。春樹はあまり読んでこなかった。特に長篇はちょっと苦手だったが、短篇集は好きだった。

 さて『一人称単数』だが、いつもに比べて淡々とした印象だ。超常現象的なところが少ないし、エッセイのような味わいだ。「ヤクルト・スワローズ詩集」は、村上春樹が若いころ『ヤクルト・スワローズ詩集』という詩集を自費出版したなどと書いている。500部発行したが、それが今では貴重なコレクターズ・アイテムになり、驚くほど高い値段がついているという。これはどこまで本当のことなんだろう。

 「石のまくらに」のヒロインは、付き合っている彼から「おまえは顔はぶすいけど、身体は最高だ」と言われているし、「謝肉祭」の彼女は冒頭で「これまで僕が知り合った中でももっとも醜い女性だった」と紹介される。

 その「謝肉祭」は醜い女性F*と知り合った僕が、共通の趣味であるクラシックのピアノリサイタルに連れ立って出かける話で、しかも二人の一番好きな音楽がシューマンの『謝肉祭』だった。「僕ら」は3人のピアニストが『謝肉祭』を弾くコンサートに足を運び、42枚の『謝肉祭』のレコードやCDを聴いた。二人で42枚の『謝肉祭』を聴き終えた時点で、彼女のベストワンはアルトゥーロ・ベネディッティ・ミケランジェリの演奏であり、僕のベストワンはアルトゥール・ルビンシュタインの演奏だった。

 私はシューマンの「謝肉祭」を特に好んだことはなかったが、これを読んで手許の「謝肉祭」をいくつか聴き比べてみた。結果、F*の言うミケランジェリが一番良かった。「僕」の選んだルビンシュタインは好みではなかった。ほかにアシュケナージが悪くなかったが、クラウディオ・アラウは最も好みから遠かった。

 読み終えて、本書は春樹としては地味であまり売れないんじゃないかと他人事ながら危惧した。

 「ぶすい」女性と言えば、(自分のことを外して)私も2人ほど思い出す女性たちがいる。どちらも私より10歳くらい年上で、一人は亡くなりもう一人は老人介護施設に入っているらしい。二人ともとても前向きな人達で、決して人生を後悔するような一生ではなかったと思う。逆に美しい女性で不幸な人生を歩んだ人の方が多かったような印象がある。

 

 

 

 

銀座メゾンエルメス フォーラムの田口和奈展を見る

 東京銀座の銀座メゾンエルメス フォーラムで田口和奈展「A Quiet Sun」が開かれている(9月30日まで)。田口は1979年東京都生まれ、東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業後、同大学院美術研究科博士号取得。2013年よりオーストリア、ウィーンを拠点に制作を続けている。

 ギャラリーのホームページより、

 

田口は、多重的な構造を有するモノクロームの作品を手がけており、これによって時間や空間といった抽象的な存在を見出すことを試みている。たとえば、自ら制作した絵画や彫刻を多重露光で撮影する、プリントした印刷紙の上に油彩でドローイングを描いてさらに撮影するなど、重層的な制作手法をとっており、写真でありながらも長い時間をかけてカンヴァスに向かう絵画に似た姿勢を見てとることができる。

また、田口は、しばしば過去の美術作品を参照し、匿名のファウンドフォトや雑誌から既存のイメージを用いるなど、収集した過去のイメージ群が織りなすアレゴリーを読み取ることを試みている。そこには、ドイツの美術史家アビ・ヴァールブルクによる、古代から現代に至るイメージの記憶を星座のごとく浮かびあがらせるプロジェクト『ムネモシュネ・アトラス』の影響がある。

 



 作品とは別に驚いたのは展示風景だった。小さな写真作品を大きな壁面にポツンと設置している。ある意味きわめて贅沢な展示だ。ギャラリーのスタッフによると、この展示は田口の意図によるという。ほとんどインスタレーションと言った趣なのだ。

 作品おおよび展示設計がとてもユニークだった。

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田口和奈展「A Quiet Sun」

2022年6月17日(金)―9月30日(金)

11:00-20:00(日曜は19:00まで)

不定休(エルメス銀座店の営業に準ずる)

     ・

銀座メゾンエルメス フォーラム

東京都中央区銀座5-4-1 8・9階

電話03-3569-3300

https://www.fashion-press.net/news/88323

 

 

東京国立近代美術館の常設展「MOMATコレクション」を見る

 東京国立近代美術館の常設展「MOMATコレクション」が開かれている(10月2日まで)。素晴らしい収蔵品だと思う。できればもっともっと予算を付けて、収蔵品の充実を図ってほしい。企画展ではなく、常設展を目的に美術館を訪れる人が増えるように。

 

山口薫

藤田嗣治

小磯良平

山口長男

麻生三郎

野見山暁治(安井賞受賞作品)

菅井汲

黒田アキ

辰野登恵子

村上隆

会田誠

ピカソ

マチス

リヒター

斎藤義重

山田正亮

高村光太郎

佐藤忠良

三木富雄

若林奮


 最初ピカソの作品を見たとき猪熊弦一郎かと思った。猪熊とピカソの関係がよく分かった。麻生三郎を見ると、針生一郎さんが講演で、戦後優れた画家は松本峻介と香月泰男、それに麻生三郎だと言ったことを思い出す。私は戦後優れた画家は、山口長男と野見山暁治だと思っている。


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「MOMATコレクション」

2022年5月17日(火)―20022年10月2日(日)

10:00―17:00(金・土は20:00まで)月曜日休み

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東京国立近代美術館

東京都千代田区北の丸公園3-1

ハローダイヤル050-5541-8600

https://www.momat.go.jp/

 

 

みぞえ画廊の藤澤江里子・細井篤二人展を見る(その2:藤澤江里子)

 東京田園調布のみぞえ画廊で藤澤江里子・細井篤二人展が開かれている(7月31日まで)。昨日の細井篤に続いて今回は藤澤江里子を取り上げる。

 藤澤は1960年東京都生まれ、武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン科を卒業したあとBゼミスクールを修了している。なびす画廊、かわさきIBM市民文化ギャラリー、村松画廊、ギャラリーαM、トキ・アートスペース、アルフレックス玉川などで個展を開いている。2012年は青梅アートフェアで青梅市立美術館に大作を展示していた。

玄関正面の大作


 藤澤は線に特徴がある作家だ。独特の線が空間を描いている。抽象的でありながら、何か具体的な空間を描いているようにも見える。

 玄関の正面に展示されている大作が素晴らしい。藤澤は躊躇することなく速いスピードで描いているのだろう。その即興的な線が美しい。今回は目立たなかったが、色彩にも優れた画家なのだ。

 みぞえ画廊は人が実際に居住するような空間を持つ画廊だが、藤澤には普通のホワイトキューブに展示するのが相応しいのではないか。

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藤澤江里子・細井篤二人展

2022年7月16日(土)―7月31日(日)

10:00-18:00(会期中無休)

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みぞえ画廊 東京店

東京都大田区田園調布3-19-16

電話03-3722-6570

http://mizoe-gallery.com

田園調布駅西ロータリーより徒歩7分