みぞえ画廊の藤澤江里子・細井篤二人展を見る(その1:細井篤)

 東京田園調布のみぞえ画廊で藤澤江里子・細井篤二人展が開かれている(7月31日まで)。これを2回に渡って紹介する。今回は細井篤を取り上げる。

 細井は1963年長野県出身、武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コースを修了。1993年にギャラリー21+葉アネックスで初個展を開いている。私は偶然この個展を見ている。床に置かれた立体作品を鳥観図的に見下ろすような展示だった。その後、細井が私と同郷の長野県飯田市出身で、しかも彼のお父さんはわが師山本弘の友人であり、54年前に山本からお父さん細井督三さんを紹介されていたことを知った。

 その後さまざまな画廊で開かれた細井の個展を見てきた。しばしば東京渋谷のギャラリエアンドウで個展を開いてきたが、ここは小さな画廊なので小品が多く、少々物足らなかった。

玄関横に設置された作品



 久しぶりの大きな会場で細井の作品を見ることができた。細井は針金を曲げて、それが作る3次元の曲面に薄い膜を張る作品を初個展から繰り返し制作している。今回は玄関や庭に大きな作品を設置している。

 針金で作られた小品も面白かった。

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藤澤江里子・細井篤二人展

2022年7月16日(土)―7月31日(日)

10:00-18:00(会期中無休)

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みぞえ画廊 東京店

東京都大田区田園調布3-19-16

電話03-3722-6570

http://mizoe-gallery.com

田園調布駅西ロータリーより徒歩7分

 

 

川添愛『言語学バーリ・トゥード』を読む

 川添愛『言語学バーリ・トゥード』(東京大学出版会)を読む。本書は東京大学出版会のPR誌『UP』に連載していたものをまとめたもの。「はじめに」に相当するところで、「この連載に登場しがちなイカしたメンバーを紹介する」とある。

 

筆者(川添):かつて研究者として働いていた人間で、数年前からフリーで本などを書いて生計を立てている。専門は言語学で、訳あって人工知能の分野にもしばらくいたことがある。昭和生まれのプロレス好き。東京大学とは無関係。

 

T嬢(仮名):東京大学出版会の編集者。この連載の担当をしている。後述のSTO先生の担当でもある。一度も携帯電話を持ったことがないらしい。

 

STO先生(仮名):東京大学の先生で、宇宙物理学がご専門。『UP』で、長寿人気連載「注文(ちゅうぶん)の多い雑文」を担当している。同連載は、物理学や科学全般に関するトピックを親しみやすい形で取り上げつつ、膨大な注に爆笑ネタを仕込むという独自のスタイルを確立している。(後略)

 

 STO先生は須藤靖さん、川添の連載の初期にSTO先生からクレームが付けられたと、それを取り上げている。そのクレームは、「連載タイトルに含まれるバーリ・トゥードという用語について、まったく説明がない」というものだった。

 「バーリ・トゥード」とはポルトガル語で「何でもあり」の意味で、ルールや反則を最小限にした格闘技の一ジャンルを指す、とのこと。言語学に関する何でもありのエッセイという意味になるのか。

 たしかに川添のエッセイは須藤靖の「注文の多い雑文」と似たスタイルを狙っているようだ。しかし連載時に一度読んでいるはずなのに、ほとんど覚えていなかった。そういう意味では須藤靖が一枚も二枚も上なのだろう。このブログでも須藤の「注文の多い雑文」を何度も紹介してきたし、T嬢に関しても採り上げたことがあった。

 

 

 

ポーラ ミュージアム アネックスの竹村京・鬼頭健吾展を見る

 東京銀座のポーラ ミュージアム アネックスで竹村京・鬼頭健吾展「色と感情」が開かれている(7月24日まで)。竹村は1975年東京都生まれ、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画修了。横浜トリエンナーレ群馬県立近代美術館、ポーラ美術館などで展示をしている。鬼頭は1977年愛知県生まれ、京都市立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。京都市京セラ美術館や国立新美術館、ハラミュージアムアークなどで展示をしてきた。

 今回は二人のコラボレーションである。ちらしの紹介文から、

 

竹村京は、写真やドローイングの上に刺繡を施した白布を重ねた平面のインスタレーションや、壊れてしまった食器などの日常品を布で包んで刺繍する修復シリーズの作品を制作しています。鬼頭健吾は、フラフープやシャンプーボトル、スカーフなど日常にありふれた既製品を使い、その色の鮮やかさや鏡やラメの反社、またモーターによる動きや回転、循環などを取り入れた大規模なインスタレーションや、立体、絵画、写真などその表現方法は多岐に渡ります。

 

鬼頭健吾

竹村京

鬼頭健吾

竹村・鬼頭

竹村京

竹村・鬼頭

竹村京

竹村京

鬼頭健吾

鬼頭健吾


 竹村と鬼頭は夫婦でもあるらしい。

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竹村京・鬼頭健吾展「色と感情」

2022年6月17日(金)―7月24日(日)

11:00-19:00(入場は18:30まで)

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ポーラ ミュージアム アネックス

東京都中央区銀座1-7-7 POLA銀座ビル3階

電話050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/index.html

 

 

竹宮惠子『少年の名はジルベール』を読む

 竹宮惠子『少年の名はジルベール』(小学館文庫)を読む。竹宮のデビューした頃を描いた自伝。少女漫画でデビューし、同じくデビューしたばかりの萩尾望都と一軒家で共同生活をする。本書を巡って萩尾望都が『一度きりの大泉の話』を書き、この大泉時代に二人の葛藤があって、以後萩尾は一切竹宮との交流を断つ。

 私は少女漫画にはほとんど興味を持たなかったが、とくにこの二人の大御所竹宮惠子萩尾望都の漫画は読んだことがなかった。ただ伝記とか自伝が好きなので手に取った。

 竹宮のデビューのエピソードは面白かった。将来の大物がなかなかヒット作が出ず、萩尾の才能に嫉妬していることが書かれている。のちのボーイズラブ(BL)として大成功を収めた『風と木の詩』が編集者に理解されず、なかなか掲載にまで持っていけない。

 本書で語られているのはボーイズラブ路線が成功して売れっ子になる前までで、竹宮はその後京都精華大学教授から学長にまで大出世する。さらに日本マンガ学会会長、国際マンガ研究センター長にまで就任する。

 本書のタイトルの「ジルベール」が分からなかったので検索したら、『風と木の詩』の主人公の名前で、『風と木~』の登場人物や簡単なストーリーも紹介されていた。竹宮の描くなよなよした少女漫画特有の人物やストーリーは私にはとうてい容認できないものだった。

 本書で、「私や萩尾さんは1回見ただけで、映像をそのまま丸ごと、視覚的に記憶できたので、互いに興味を持った画面構成の面白さを確認し合うことができる」とある。やはりそうだったんだ。

 そして、恩地日出夫監督のアニメ『地球へ…』の原作が竹宮惠子の漫画だったことを知った。恩地のアニメは見てみたい。

 

 

 

ガルリHの田中綾子展を見る

 東京日本橋小舟町のガルリHで田中綾子展が開かれている(7月23日まで)。田中は1993年大阪府生まれ、2019年に東京藝術大学美術学部彫刻科卒業、2021年同大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了している。

 ガルリHでの個展は昨年に続いて2回目となる。



 田中は不思議な絵画作品?を展示している。絵具の代りにエポキシ樹脂を使っているのだ。額も自作している。額から樹脂が垂れ下がっているが、もちろん硬化している。平面のようなレリーフのような不思議な作品だ。樹脂には写真が取り込まれているようだ。

 不思議な造形だが、美しさがある。荒々しさと同時に繊細さも感じさせる。そのアンビバレンツが田中の作品の魅力なのかもしれない。

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田中綾子展「今日」

2022年7月10日(日)―7月23日(土)

12:00-19:00(最終日17:00まで)7月11日と19日休廊

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ガルリH(アッシュ)

東京都中央区日本橋小舟町7-13 東海日本橋ハイツ2F

電話03-3527-2545

https://galerie-h.jp

東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅A1・B6出口から徒歩5分