ケン・リュウ『紙の動物園』を読む

 ケン・リュウ『紙の動物園』(ハヤカワ文庫)を読む。近頃とても評判の良い中国系のSF作家の短篇集。第1巻が本書で第2巻が『もののあはれ』、本書はファンタジイ篇、『もののあはれ』はSF篇とのこと。

 「紙の動物園」はお母さんが折ってくれた折り紙の動物たちが走り回るというもの。リュウ中華人民共和国に生まれて、11歳の時家族と共にアメリカへ移住した。おそらくアメリカでの差別体験がしばしば描かれる。

 縄を結んで文字の代りにする「結縄」、「太平洋横海底トンネル小史」は戦前中国からアメリカへ太平洋の海底をトンネルを掘って通路にしたという設定。そのため第2次世界大戦は起こっていない。

 「文字占い師」が圧巻だ。転勤した父親ついて台湾へ渡った少女リリーは転校先でいじめを受ける。それを救ってくれた老人の文字占い師とその孫と親しくなるが、ちょっとした誤解からリリーの知らないところで文字占い師はおそらくCIA?のリリーの父親から拷問を受ける。その拷問の描写が残酷で圧倒される。本書中最も印象に残った作品だった。しかし、拷問を取り去って見れば、さほど成功した短篇とは言えない。救いはないし、最後のオチがリリーが「もうヤンキースは好きじゃないの」というのも軽すぎる。

 さて、ケン・リュウが大変なアイデアマンであることはよく分った。続篇のSF篇である『もののあはれ』を読んでみよう。