小林英樹『「ゴッホ」にいつまでだまされ続けるのか』を読む

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SOMPO美術館の「ひまわり」



  小林英樹『「ゴッホ」にいつまでだまされ続けるのか』(情報センター出版局)を読む。小林がゴッホの作品の重要な6点を贋作だと指摘している。それは日本のSOMPO美術館所蔵の「ひまわり」、ワシントン・ナショナルギャラリー所蔵の「自画像」、オルセー美術館所蔵の「ジヌー夫人」、フィラデルフィア美術館所蔵の「カミーユルーラン」、芦屋の財界人が購入し、第2次世界大戦で焼失した「向日葵」、「寝室」のスケッチの6点だ。

 小林は推理小説の謎解きのようにそれらが贋作である所以を指摘する。造形的に、ゴッホの心理として、筆触の不自然さ等々から。その指摘はどれも極めて説得力があると思われる。

 ゴッホはしばしば自分でレプリカを描いていた。ゴッホのレプリカの描き方はオリジナルを傍に置いて、それを見ながら描くというものだった。だからオリジナルとレプリカを重ねると微妙にぶれている。ところがSOMPO美術館の「ひまわり」は、オリジナルのロンドン・ナショナルギャラリーの「14輪の向日葵」と重ねるとぴったりと重なってしまう。贋作者がトレースしたのでなければこうはならない。

 「寝室」は、油彩の作品もゴーギャンに送ったスケッチもきちんと一点透視図にかなっているのに、贋作の「寝室」のスケッチだけが消失点も透視線も持たず、でたらめなスケッチになっている。

 一流の美術館が所蔵しているゴッホの作品が実は贋作だなんて、美術館の面子としても、また何百億円かで購入した資産という面からもにわかには肯定できないのかもしれない。しかし、小林の主張はほとんど反論できないのではないか。

 とても興味深い読書だった。