海外の長篇小説ベスト100から

 少し古いが雑誌『考える人』が海外の長篇小説ベスト100を特集していた(2008年春号)。このテーマなら13年前だがあまり古びてはいないだろう。これがなかなか興味深い。

 129人の作家や批評家など、さまざまな書き手129人にアンケートを依頼し、各人のベスト10を挙げてもらった。1位に10点、2位に9点……、10位に1点を配点し集計した。

 

第1位  「百年の孤独」  (ガルシア=マルケス

第2位  「失われた時を求めて」  (プルースト

第3位  「カラマーゾフの兄弟」  (ドストエフスキー

第4位  「ドン・キホーテ」  (セルバンテス

第5位  「城」  (カフカ

第6位  「罪と罰」  (ドストエフスキー

第7位  「白鯨」  (メルヴィル

第8位  「アンナ・カレーニナ」  (トルストイ

第9位  「審判」  (カフカ

第10位  「悪霊」  (ドストエフスキー

  

 ドストエフスキーがベスト10に3点も入っている! カフカが2点も! 

 

第11位  「嵐が丘」  (エミリー・ブロンテ

第12位  「戦争と平和」  (トルストイ

第13位  「ロリータ」  (ナボコフ

第14位  「ユリシーズ」  (ジェイムズ・ジョイス

第15位  「赤と黒」  (スタンダール

第16位  「魔の山」  (トーマス・マン

第17位  「異邦人」  (カミュ

第18位  「白痴」  (ドストエフスキー

第19位  「レ・ミゼラブル」  (ユゴー

第20位  「ハックルベリイ・フィンの冒険」  (マーク・トウェイン

 

 ベスト20までにドストエフスキーが4点、トルストイが2点。ナボコフの評価が高い。

 

第21位  「冷血」  (カポーティ

第22位  「嘔吐」  (サルトル

第23位  「ボヴァリー夫人」  (フローベール

第24位  「夜の果てへの旅」  (セリーヌ

第25位  「ガープの世界」  (アーヴィング)

第26位  「グレート・ギャツビー」  (フィッツジェラルド

第27位  「巨匠とマルガリータ」  (ブルガーコフ

第28位  「パルムの僧院」  (スタンダール

第29位  「千夜一夜物語」  (――)

第30位  「高慢と偏見」  (ジェーン・オースティン

 

  カポーティの評価が高い。サルトルカミュに水を開けられた。ベスト30までにスタンダールが2点入った。

 

第31位  「トリストラム・シャンディ」  (スターン)

第32位  「ライ麦畑でつかまえて」  (サリンジャー

第33位  「ガリヴァー旅行記」  (セルバンテス

第34位  「デイヴィッド・コパフィールド」  (ディケンズ

第35位  「ブリキの太鼓」  (ギュンター・グラス

第36位  「ジャン・クリストフ」  (ロマン・ロラン

第37位  「響きと怒り」  (フォークナー)

第38位  「紅楼夢」  (曹雪芹・高蘭埜)

第39位  「チボー家の人々」  (マルタン・デュ・ガール)

第40位  「アレクサンドリア四重奏」  (ロレンス・ダレル

 

 30位までは半分ほど読んでいたが、31~40位では3冊しか読んでいない。スターンは吉行淳之介の勧めで読んだ。

 

第41位  「ホテル・ニューハンプシャー」  (アーヴィング)

第42位  「存在の耐えられない軽さ」  (クンデラ

第43位  「モンテ・クリスト伯」  (デュマ)

第44位  「変身」  (カフカ

第45位  「冬の夜ひとりの旅人が」  (カルヴィーノ

第46位  「ジェーン・エア」  (シャーロット・ブロンテ

第47位  「八月の光」  (フォークナー)

第48位  「マルテの手記」  (リルケ

第49位  「木のぼり男爵」  (カルヴィーノ

第50位  「日はまた昇る」  (ヘミングウェイ

 

 50位以下は、気になるものを拾ってみる。

 第57位に日本文学から初めて「源氏物語」(紫式部)が選ばれている。第60位に「スローターハウス5」(カート・ヴォネガット)、第61位に「アブサロム・アブサロム!」(フォークナー)、第66位に「日の名残り」(カズオ・イシグロ)、第70位に「ブライヅヘッドふたたび」(イーヴリン・ウォー)、第78位に「不思議の国のアリス」(ルイス・キャロル)、第86位に「薔薇の名前」(ウンベルト・エーコ)、第91位に再び「死の家の記録」(ドストエフスキー)、第100位が「悪徳の栄え」(ド・サド)となっている。

 このほか、アンケートを依頼した129人のベスト10が紹介されている。その中からもいくつか拾ってみる。

 内田樹が7位に「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」(ル・カレ)を入れている! 江國香織が7位に「情事の終り」(グレアム・グリーン)を入れてくれた。吉田篤弘が1位に、鹿島田真希が6位に「フラニーとゾーイ」(サリンジャー)を入れている。加藤典洋の10位は「マルタの鷹」(ハメット)、川本三郎と横山貞子がともに10位に「蠅の王」(ゴールディング)を入れているが、過大評価だろう。木田元の8位に「王道」(マルロー)が入っている。小池昌代の9位は「倦怠」(モラヴィア)だ。小沼純一の8位に「愛する大地」(ル・クレジオ)が選ばれた。さげさかのりこは5位に、沼野充義は10位に「ソラリス(の陽のもとに)」(レム)を選んでくれた。佐々木敦沼野恭子が二人とも8位に「突囲表演」(残雪)を選んでいる。関川夏央は順位なしで「モーヌの大将」(フルニエ)を選んでいる。懐かしい。巽孝之の2位は「完全な真空」(レム)だ! 永江朗の9位が「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ディック)、保坂和志が順位なしで「枯草熱」(レム)と「路傍のピクニック(ストーカー)」(ストロガツキイ)を選んでいる。レムもストロガツキイもタルコフスキーの映画の原作者だ。

 村松潔は4位に「北回帰線」(ヘンリー・ミラー)を選び、「ミラーの作品群はこんなにもでたらめな生き方が許されるのかという驚きと救いに似た気分を与えてくれた」と書いている。山田太一の8位は「軽蔑」(モラヴィア)、若島正の6位が「叔母との旅」(グレアム・グリーン)だ。

 さらに「検証座談会」と題して、豊崎由美青山南加藤典洋が語っている。

 

青山  豊崎さんで思い出した。ル・クレジオを入れるのを忘れたな。

豊崎  豊崎光一さんの訳ですね。

加藤  入れようと思ってたんだよ。僕、入れたっけ? 入れてない?

青山  「調書」は入れたかったな。

加藤  「調書」は入れなきゃいけないんですよ。若いときのこと考えると、入れなきゃ申しわけない。だって、あの「調書」でしょう。そのあと「発熱」があって、「物質的恍惚」「大洪水」……。

青山  加藤さんと僕は年齢が近いので、「調書」が翻訳されたときの日本での大騒ぎはよく覚えています。「物質的恍惚」も大好きでした。

加藤  出てすぐ買ったんですよ。ちっちゃい本屋でね。帯の背に「新しい嘔吐」と書いてあった。66年、大学1年のときです。

青山  「調書」は大変な話題になりましたよね。訳がまた斬新だった。「調書」はかなりぶっ壊れた小説で、ああいう小説を書いた人は、やっぱりのちのちインディオのほうに行くだろうなと思う。

 

 ル・クレジオの「調書」は私の聖書だった。ブログの題名「mmpoloの日記」も「調書」の主人公の名前アダム・ポロから採っている。

 このベスト100は教えられるところが大だった。