10年前の安齊重男展「絵画試行」について

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DMハガキ


  今から10年前の2011年に東京銀座のギャラリー現で安齊重男展「絵画試行」が開かれた。安齊は、「現代美術の伴走者」を自称し、国内外の現代美術の現場を写真によって記録してきた(wikipediaより)。2007年には、国立新美術館で大規模な「安齊重男の "私・写・録(パーソナル フォト アーカイブス)"1970-2006」が開催された。現代美術の記録写真家として第一人者で、もの派を始めインスタレーションなど貴重な現場の記録を残している。多摩美術大学で教えていたが、昨年81歳で亡くなった。

 現代美術の記録者であったが、10年前にギャラリー現で個展を開いている。「絵画試行」と題されていたが、副題が「NEW YORK 1978-1979 ANZAI」だった。その作品について、同展のちらしより、

 

今回ギャラリー現で展示するカラー・プリントは1978年から1979年(……)ニューヨークのマンハッタンに住んでいた時撮影したものです。(……SOHOまでの道のりで)目に入って来る壁に貼られた幾重にも重なる古いポスターや電柱にある小さなメモ、考えられないようなあざやかな色彩で塗られたレンガの壁どれをとってもとても刺激的だった。そんなものを目ざとく見つけ出しフィルムにおさめる作業は自然発生的に始められていた。(……)ファインダーをのぞき色のコンポジション、ディテールに感じられる表面の面白さ、まるで絵を描く気分がそこに生まれていたのは、私がかつて絵を描いていた当時の事柄と重なっていたのかもしれない。(……)後に私はこの作業を「絵画試行」と名付けることにした。

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 壁面の模様や記号、破れたポスターの一部など、どこか抽象絵画を思わせる。安齊はおそらくそれらを自分の作品、表現として捉えたのではないだろうか。記録に徹していた作業の合間にどこか表現を披露したいとの欲求があり、それがこの個展になったのではないだろうか。

 だが、この個展は無残なものだった。自己表出の作品として、あるいは街に偶然見つけられた風景の破れとして、いずれも中途半端なものだった。たとえ一人で面白がっても、作品として個展という場で発表するのは、自己批判が足りないのではないかと思ったのだった。

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安齊重男展「絵画試行」

2011年5月16日(月)―5月28日(土)

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ギャラリー現

東京都中央区銀座1-10-19 銀座一ビル