西東三鬼『神戸・続神戸』を読む

 西東三鬼『神戸・続神戸』(新潮文庫)を読む。西東については前衛的な俳句を作る俳人としか知らなかったが、SギャラリーのYさんのブログで本書を知った。西東が京大俳句事件で特高に検挙され、執筆を禁止されて神戸へ流れていく。アパートを兼ねたホテルを紹介され、以後空襲で焼けるまでそこに住み着く。
 変わったホテルで戦中に外国人やバーの女たちが住んでいた。外国人客はエジプト人やロシア人、トルコタタール人、ドイツ人などで、バーに勤めている女たちはバーで知り合った男たちを一夜の客として商売していた。
 戦後は近くの洋館を借りて住んでいたが、進駐してきたアメリカ兵と女たちとのエピソードが語られる。ほとんどどの話も短篇小説を読むような面白さだ。ところが西東はすべて事実で創作ではないと言っている。
 西東はホテルで女と暮らしながらも、後半で和歌山の隠し子に会いに行くと言っている。これは何だと思ったらその後で説明があって、西東が世話になった女性看護士が未婚なのに、ガンで長くは生きられない母親から孫の顔を見せてほしいと言われ、西東に父親になってほしいと懇願した。それで西東はすでに妻と一人のこどもがあったが、「断れない人から頼まれて子を産むことに協力した」と書いている。
 このほか、西東には『俳愚伝』というエッセイもあるらしい。それも読んで西東三鬼の句集も読んでみたい。本書は200ページ近いのにたったの430円+税だ。本当に新潮文庫は安いと感心する。

 

 

 

神戸・続神戸 (新潮文庫)

神戸・続神戸 (新潮文庫)