ギャラリーKINGYOの作間敏宏展「接着/交換」を見る

 東京千駄木のギャラリーKINGYOで作間敏宏展「接着/交換」が開かれている(3月31日まで)。画廊に入ると1階の広いスペースの3面の壁の上部に写真らしきものが10点ほど展示されている。黒い枠に入った写真はスリガラスで覆われているせいもあってぼやけて見える。いや、作間はわざとぼやけた写真を使っているのだ。それもネットで集めた匿名の写真を。

f:id:mmpolo:20190321212413j:plain

f:id:mmpolo:20190321212433j:plain

 階段を2階の展示場へ登る。踊り場に額に入った6×4=24のぼやけた写真が展示されている。

f:id:mmpolo:20190321212502j:plain
 2階はかなり暗くなっている。両側の壁にタブレットが10台展示されていて、そこには動画が映し出されている。ぼやけた人が徐々に鮮明になり再びぼけていって消えていく、という画面がループ状に繰り返し映されている。

f:id:mmpolo:20190321212533j:plain

 遠くの正面にたくさんの明かりが見える。近づいていくと小さな箱に入ったぼやけた写真だ。作間に訊くと120個ほど並べてあるという。

f:id:mmpolo:20190321212602j:plain

f:id:mmpolo:20190321212619j:plain

f:id:mmpolo:20190321212637j:plain

f:id:mmpolo:20190321212653j:plain

f:id:mmpolo:20190321212709j:plain

 以前も書いたことだが、ゲーテの『ファウスト』の冒頭を思い出す。

 さまざまな姿が揺れながらもどってくる。かつて若いころ、おぼつかない眼に映った者たちだ。このたびは、しっかりと捕らえてみたい。いまもなぜか、あのころの夢に惹かれてならない。さまざまな姿がひしめき合ってやってくる! 霧と靄(もや)をついて迫ってくる。その不思議な息吹にあおられて、この胸もすっかり若やいだ。

 楽しかったころのことがよみがえってくる。やさしい影が立ちあらわれ、半ば消えた古い物語のように、初恋や友情がもどってくる。せつなさ、往き迷った人生の嘆き。つかのまの幸せにあざむかれ、花の盛りにどこかに消えていった人々を呼びもどしたい。

 

 亡くなった友人たちの姿が現れるのはまさにこんな風だ。おぼろに現われてまた消えていく。生前のようにはっきりとは捉えられなくおぼろではあるが、しかし消え去ることはなく、繰り返し戻ってくる。
 作間の展示は、そんな日常に埋もれていた大事な記憶を呼び戻してくれる。むかし建畠晢が講演で、日本のインスタレーションは皆お花畑ですと言い捨てたが、そうではない例がここにある。
     ・
作間敏宏展「接着/交換」
2019年3月20日(水)-3月31日(日)
12:00-19:00、月曜休廊
     ・
ギャラリーKINGYO
東京都文京区千駄木2-49-10
電話050-7573-7890
http://www.gallerykingyo.com/
東京メトロ千代田線根津駅千駄木駅 両駅から徒歩7分