カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』を読む

 イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』(白水社uブックス)を読む。とても奇妙な小説。冒頭「あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている。さあ、くつろいで、精神を集中して。余計な考えはすっかり遠ざけて」。と始まる。次の章で「冬の夜ひとりの旅人が」が始まるが、20ぺージ足らずで唐突に中断する。そして新しい章が起こされ「あなたはもう30頁ほど読み進み、成り行きに夢中になりつつある」と続いている。ところが読んでいた本は落丁だった。翌日本屋へ行って抗議すると、本屋は出版社からの通知がきているという。それによると『冬の夜ひとりの旅人が』の一部に製本上のミスがあり、ポーランド人の小説『マルボルクの村の外へ』と混合していたという。「あなた」はそのポーランド人の小説が読みたいという。次の章が、その『マルボルクの村の外へ』なのだ。
 『マルボルクの村の外へ』を読み始めると、また10ぺージほど読んだところで中断する。「あなた」は混乱する。このように次々に10篇の小説の初めの部分が紹介されては中断を繰り返す。そのことが作中人物によっても語られている。

「(……)夢中になりかけたところで読書が中断されるはめになるんです。その続きを読みたくてたまらないのですが、その読み始めた本の続きだと思って開けてみると、それがまた全然別の本なんです。」

 最後までこんな調子で進んで、この謎が解決するわけでもない。途方に暮れたような状態で読書を終えることになる。
 不思議な小説だった。